「ここを訪ねる人においしく安全な野菜を食べてもらいたい」と語る白倉篤さん。 “自然の恵みを分かち合う場所”『八ヶ岳南麓URAYAMA』に念願の馬場を造り、 馬の飼育と畑をつなぐ循環型農業は、今日も人の輪を築いていく。

「ミルキーフレンズ」と呼ばれる子どもたちがほぼ毎週やってきて、馬の世話をする。ふれあいを通して、多様な力を身に付けていく。
ケミカルフリー農業で緑も生き物もたくましく
「ミルキー、こっちにおいで!」「アキオ、ごはんだよ」。まるで友達のように馬たちの世話をしながらじゃれあう子どもたち。八ヶ岳南麓の豊かな自然の中にある『URAYAМA』の、日常のワンシーンだ。

ここを営む白倉篤さんは、自身が子どもの頃からここで遊び、畑を手伝いながら育ったという。「先祖代々の畑で、祖父母の頃は農耕馬を飼って養豚も営んでました」と白倉さん。大学を卒業してからは動物用医薬品に関わる仕事をしていたが、家の事情でUターンすることに。両親の農業を手伝いながら、環境関連の会社に勤務していた。「両親は農協に野菜を出荷していたのですが、誰が食べてくれるのか、出荷した先のことは分からない。それよりここを訪れた人に、丹精込めて育てた野菜をおいしく食べてもらったほうがいいと思うようになりました」。


収穫した野菜をすぐに食べてもらうのだから、農薬は使わないほうがいい。生き物に優しい野菜じゃないと、当然人にも優しくない。そう考えた白倉さんは、ケミカルフリーの循環型農業に挑戦することを決意。祖父母の時代のように、馬ふんを肥料にした農業にしようと考え、乗馬クラブから馬ふんをもらい、畑作りを行ってきた。2023年には、念願の馬場を造って馬2頭を迎え入れ、現在は自給自足で循環型農業を営んでいる。

白倉さんが手がける田んぼや畑は、作物と同じくらい雑草もどこか生き生きとしている。「馬もうちの野菜を食べて育っているから健康で(笑)。いろいろな微生物も存在し土壌が豊かになり、稲も野菜も元気になります。その分、草も生えます」と白倉さんは笑顔だ。
「化学肥料は、人間の世界でいうとサプリのようなもの。土には本来、さまざまな栄養素があるので、いかに土の栄養を引き出し、土壌環境をよくしてあげるかが大切。ここでは自分たちで育てている馬のふんを肥料にしているから、土壌環境はよくなる一方です」。
親子で体験する場を設け自然とのつながりを体感
『URAYAМA』では年間を通して野菜や米作り、みそ造りなどの体験イベントを開催。週末になると家族連れが訪れ、にぎやかにイベントを楽しむ姿が見られる。子どもたちに人気なのは引き馬や餌やりなどの馬とのふれあいだ。


またここには「馬の学校MilkyWay」があり、 子どもたちは馬の世話や乗馬を通して、コミュニケーション能力やバランス感覚など身体能力の向上を図っている。指導者の峯﨑友香理さんは別の牧場でミルキーと出会って以来、各地で場所を借りながら体験プログラムを開催していたが、白倉さんと出会い、2024年春からここで学校を開いている。「ミルキーが白倉さんの目指す循環型農業の一端を担えているのもうれしいです」と峯﨑さん。「ミルキーやアキオがここの健康的でおいしい野菜を食べて、ふんをして、それが堆肥となってまたおいしい野菜を作る。こうした循環を子どもたちが楽しく体験しながら学べる場所だと思っています」。

田んぼや畑でもまた、親子や子どもたちが作業をしながら、自然の循環を体感する。「虫に食われた野菜もありますよ。でも虫を退治しましょう、とは教えません。ここの自然に育まれてできた野菜や米を、ありがたく頂く。その尊さを実感し、自然や命の大切さを五感で感じてもらいたいと思ってます」と白倉さんは話す。




今後はキャンプ場や、キッチンカーのカフェなどもつくる予定だという『URAYAМA』。「私たちが幼い頃いろいろなことを学んだ裏山で、多くの人へ循環型農業の素晴らしさを発信したいですね」。


【Name】白倉篤さん(右)、 穂苅佐一郎さん(中央右) 峯﨑友香理さん(中央左)、 白倉明さん(左)
白倉さんの弟、明さんは介護関連の仕事を行いながらここを手伝う。穂苅さんは東京と八ヶ岳の2拠点生活を送りながら、スタッフとして畑仕事などに尽力している。
DATA
- 八ヶ岳南麓URAYAMA
- 【エリア】山梨・北杜市
- 【電話】090・5429・9131
- 【住所】山梨県北杜市高根町村山北割3107
- 【他】八ヶ岳南麓URAYAMAの公式サイトはこちらをタップ
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。