
時代を席巻した清里のペンション文化。「あの頃のにぎわいを再び」と、老舗ペンションが器ギャラリー&カフェとして再出発。清里をこよなく愛する親子3人の新たなストーリーが始まった。
器ギャラリーとランチが楽しめるカフェに一新
45年前に、ここ清里の地でオープンしたペンション。太田正彦さん、恭子さん夫婦の心尽くしのもてなしと本格的なフレンチが多くの常連客を魅了したが、2020年に惜しまれながらも閉店。その後、娘のかおるさんもメンバーに加わり、「今までのお客様も、新たなお客様も楽しめる場所にしたい」と、2024年に器のギャラリーと食事が楽しめるカフェとして再スタートを切った。

テーブルやイスはペンション経営時から使っていたものをリペアして使用。「懐かしがってくれる常連のお客様もいます」とかおるさん。
ランチは、おかゆブランチとフレンチを月替りで提供。おかゆブランチは優しい甘さのかぼちゃなど、季節の野菜を使ったおかゆに煮物やあえ物などの総菜がつき、おなかも心もホッとする味わいだ。

本日のおかゆブランチ¥1,400。季節の野菜を使ったサラダやがんもどきの煮物、桜エビとほうれん草のオムレツなど味も彩りも多彩。
「もともとペンション経営時に朝食として出していたメニューです。前の晩にフレンチとワインで疲れた胃を休めてほしいと思って」と話す正彦さん。そのさりげない心遣いに魅せられて何度も訪れたゲストもいたに違いない。
もうひとつのフレンチのランチは、東京のレストランシェフに習い、フランスの星付きレストランも食べ歩いて勉強したという恭子さんが腕を振るう本格派。口の中でほろほろと崩れるほど柔らかく煮込んだ仔牛の赤ワイン煮込みなど、都心から訪れる食通の舌もうならせるおいしさだ。

フレンチコース¥2,600は オードブル、スープ、メイン、パン がつく。メインの仔牛の赤ワイン煮込みは恭子さんのスペシャリテのひとつ。
合わせるワインは、正彦さんがセレクトした山梨県産が中心。ペンション経営時から懇意にしているワイナリーがあり、中には正彦さんが実際にぶどうづくりに関わったものもあるそう。正彦さんのワイン談義は造詣が深く、ワイン好きならこれを目当てに尋ねてみるのもまた楽しい。

正彦さんが厳選したワインのボトルがずらり。
これらの料理はすべてかおるさんが「爽やかな高原の風景に似合うものを」とセレクトした器に盛り付けられる。重厚感のあるものや淡い色合いの器、ガラスなど色も形もさまざまで、器が一層料理に彩りを添える。こうした多彩な器をめでつつ、ゆっくりとおいしい料理を楽しめる時間はぜいたくそのものだ。

外観は、扉の赤がアクセントカラーになっている。

2010年代は高原の緑に映える白い外壁だった。
清里へ足を運ぶきっかけとなる店に
「年を重ねるにつれて、子どものころから大好きな清里の自然の風景を、もう一度そばで感じたいと思うようになって。両親がペンションを辞めてしまうのが寂しかったのもあります」と戻ったきっかけを話すかおるさん。

いつも明るく仲がいい太田さん一家。温かくほがらかな3人に魅せられて、長年通うゲストも多い。
以前は人も車も多く、両親も忙しく働いていただけにその思いは強いと話す。「清里が全盛期だったころのペンションがだんだん減っていくのも寂しかった。私の中で清里のペンション文化は誇りです。このペンション文化を継承していくために、私が貢献できることはないかと考えました」。

両親が作り出した料理とサービスはそのままに、何かもうひとつ付加価値をつけたい。そこで考えたのが器の販売だ。もともと伝統工芸が好きで、その影響で器に興味を持つようになった。

ペンション経営時にラウンジだった吹き抜けの空間を器の販売スペースに。陶器やガラス、木製のトレーなど幅広い品揃えだ。
「器は暮らしを豊かにしてくれるアイテム。ちょっとした惣菜も、きれいな器に盛り付けるだけで華やかになって心を元気にしてくれます。そんな器をセレクトして、観光客の方だけではなく、地元の方も楽しんでもらえる場所になれたらいいと思っています」とかおるさんは言う。

カフェスペースから見下ろす吹き抜けの空間。食事ができる前、あるいは食べ終わった後にゆっくりと器選びをする人も。
「一つひとつの器に、作家さんが感じた景色が表現されています。その美しさと、清里の自然の美しさの両方を伝えたいと思っています」。

自然をモチーフにしたカップ&ソーサーはおみやげとしても人気がある。

日差しを受けて柔らかな影をつくるガラスのコップ。普段使いにも、特別な日にも似合う一品。
また、この場所が清里に遊びに来る選択肢のひとつになるのが目標とも。「今後は企画展やワークショップもできればと考えています。ここがきっかけとなって人がたくさん集まり、周りの店やペンションにもいい影響を与えていけたらうれしいですね」。

【Name】太田正彦さん、恭子さん、かおるさん
正彦さんと恭子さんは1980年からペンションを経営。2020年、設備の老朽化とコロナ禍でペンションを閉業。会社員だった娘のかおるさんが2022年に戻り、2024年11月に現在の店をオープン。
DATA
Utsuwa et Café Ensemble ウツワ・エ・カフェ アンサンブル
【エリア】山梨・北杜市
【住所】山梨県北杜市高根町清里3545-3074
【電話番号】0551・48・3330
【営業時間】10:00〜16:00(ランチはおかゆブランチの月/10:00 〜13:00L.O. フレンチの月/12:00 〜14:00L.O.)
【定休日】火、水 ※冬季変動あり
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 武田かよ
愛知県出身、東京都在住。ペットや家族をテーマに活動中。風景や星空もこよなく愛し、自然豊かな八ヶ岳との二拠点生活を夢見ている。