
大好きな八ヶ岳に移住して、「ふらっと立ち寄って本とコーヒーを楽しめる場所を」と開いたブックカフェ。
2人の思いをかなえた店は八ヶ岳の新たな憩いの場所となりつつある。
独特のカテゴライズで訪れる本好きたちを魅了
人生を豊かにしてくれるもののひとつに、本がある。自分にいい刺激や価値観を与えてくれる本との出合いは何物にも代えがたいものだ。
「八ヶ岳にはおいしいレストランやおしゃれなカフェはたくさんあるけれど、ふらりと立ち寄って本とコーヒーが楽しめる店があまりない。それなら、と自分たちが欲しい店を作りました」と話すのは店主の渡辺潤平さん。

今の自分に合った1冊と出合える書店に
妻の章子さんとともに山が好きで、子どもが成長したら八ヶ岳への完全移住を考えていたが、コロナ禍で仕事の環境が変わったことをきっかけに、その計画が前倒しに。今は、週の半分は東京で仕事をし、残り半分は北杜市で暮らしながら書店のオーナーを務める。
「地元の人に、東京で仕事をしていて週末はこっちへ戻って来るただの元気なおっさん、と思われたくなくて(笑)。ああ、この人はここで書店をやっている人だ、と存在を認識されたいと思いました」と笑顔で話す。

1人で訪れてもゆっくり過ごせるカウンター席や、テーブル席を配した店内。
ここに並ぶ本のセレクトは「山での長い夜に暖炉の前で読みたくなる本、ですね。自分が山の暮らしで読みたくなる本、でもあるかな」と渡辺さんは語る。そのカテゴライズは一般的な書店とは違い、「作る」「生きる」「流離う(さすらう)」など動詞で構成されている。

「長い山での夜に没頭できるような本を置いています」 という渡辺さんの話どおり、どれも興味深いタイトルばかり。「人の家の本棚みたいで面白いでしょう?」という言葉に納得。
「作家別に音順で並ぶのではつまらないでしょう?動詞でカテゴライズすることで、同じ本でも見え方が変わって面白いと思います」。なるほど、今自分が一番考えていること、興味があることのテーマで探すことができるのはとても楽しい。また約3000冊と所蔵が少ないのも、「見て回るのにちょうどいい冊数だから」と話す渡辺さん。

キャッチーな『のほほん』のロゴは章子さんが作成。

書棚の一角でマグカップや皿なども販売。コピーライターの渡辺さんの手書きポップにも思わず目が行く。
「ここなら何かきっと自分が読みたい本が見つかる、って思ってもらえるといいなと考えながら本をセレクトしています」。好きな本を購入して、おいしいコーヒーとともに心ゆくまで過ごす。同じブックカフェでも、八ヶ岳で楽しむのはまた格別だ。

コーヒーは長野県北佐久郡にある『豆玄』の豆を使用。「本に夢中になって冷めてしまってもおいしく飲めるコーヒーです」と渡辺さん。

店の前のベンチでもコーヒーが楽しめる。2024年には隣にギャラリー「SUBACO」もオープン。
親子で本を楽しむ時間と場所をつくりたい
この書店には、子どものためのスペースもつくられている。「多分、基本的に本が嫌いという子どもはいないと思う。ただ本を読む時間が奪われているだけだと思っています。本は絶対にいいもの、とは限らないけれど、子どもの頃から本を読んで楽しいと感じることは大切だと思う。うちも、子どもが赤ちゃんのときから本を読み聞かせていますね」と渡辺さんは言う。

キッズスペースで好きな本を探して読む渡辺さんの長女、千ちゃん。本からさまざまな知識や表現を吸収して身に付けていく。
「本を読みなさいと強要するのではなく、親が楽しそうに本を読んでいる姿を日常的に見せること。その積み重ねが家族に豊かな時間をもたらしてくれると思っています」。だからこそ、親子で書店を訪れる時間を大事にしてほしい。そんな思いも『のほほんBOOKS&COFFEE』には込められている。

「東京にいたころより、子どもと触れ合う時間が長くなって成長を見られるのがうれしい」と渡辺さん。

キッズスペースには子どもの知識や言葉を育む本が並ぶ。

楽しく遊びながら英語や数字を学べる知育玩具もあり、親も寄り添いながら見守れる。
渡辺さんは本と触れ合う豊かな時間を少しでも多くの子どもや大人にもってほしいと、株式会社トーハンとともに書店を立ち上げやすくする開業パッケージを開発した。「生花店×書店、美容室×書店、と兼業でできるのが魅力です。誰もが日常的に本と触れ合える時間を増やしていければと考えています」。本が暮らしのそばにあること、それは子どもの感性を育て、家族とのつながりを育んでいくだろう。
書店開業パッケージ「HONYAL」を始動
カフェ×書店、鮮魚店×書店など「誰でもどこでも書店がはじめられる」をテーマに本の取次販売を行う(株)トーハンと渡辺さんがプロデュースするプロジェクト。保証金や保証人は不要、(株)トーハンが取り扱う約3000社の書籍が注文可能などメリットは多く、最短約2カ月で書店が始められる。平日は会社員だが副業で書店経営、キャンピ ングカーでどこでも書店などライフスタイルに合わせて出店できるのが魅力。
詳細はhttps://honyal.jp/

【Name】渡辺潤平さん、章子さん
「渡辺潤平社」代表。平日はコピーライター、クリエーティブディレクターとして数々の作品を手がけ、週末は「のほほんBOOKS& COFFEE」の店主に。章子さんは主にカフェを担当している。
DATA
のほほんBOOKS&COFFEE
【エリア】山梨・北杜市
【住所】山梨県北杜市大泉町西井出8240-8420
【電話番号】0551・45・9022
【営業時間】10:00〜18:00
【定休日】日
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 石塚実貴
1984年生まれ。制作会社や広告代理店を経て2013年フリーランスとして独立。雑誌・広告等を中心に活動中。