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「白州蒸溜所」物語

第一話
ウイスキーは森で成る。

2023.10.2

八ヶ岳南麓の白州蒸溜所は 標高が高い森に囲まれた世界でも珍しい蒸溜所だ。 深い森と澄んだ空気、 南アルプスの清らかな水から生まれる原酒は 森の中で生まれ、森の中で育っていく。 竣工50周年という節目に 新たな第一歩を踏み出した 蒸溜所の魅力を紹介する。

「白州」の生まれた土地。味わいを決める、風土を知る

ウイスキーという酒の魅力は、その味わいに蒸溜所周辺の風土が映し出される点にある。仕込み水から熟成に至るまで、自然環境がウイスキーの個性に大きく影響し、風土の特徴がその一滴一滴に凝縮されるのだ。つまりウイスキーとは、蒸溜所を包み込む自然そのものの産物とも言える。
八ヶ岳南麓を代表する酒であり、国内外のウイスキー愛好家を虜にするシングルモルトウイスキー「白州」は、標高約700メートル、約82万平方メートルの広大な森の中にある『白州蒸溜所』で育まれる。その立地から「森の蒸溜所」とも呼ばれるこの蒸溜所が誕生したのは今から50年前の1973年のこと。「新たな個性を持ったウイスキーの原酒をつくる」という想いで選びぬかれた白州の地は、ウイスキーづくりにふさわしい水をたたえた日本有数の名水地であり、全く新しいウイスキーを育む自然環境が揃っていた。
こうして開かれた白州蒸溜所は、その広大な敷地の約8割を未開発の森林が占めている。「出来るだけ手を入れない」という考えのもと、アカマツやクヌギ、コナラといった植生がそのまま残り、フカフカの落ち葉に覆われた林床では、森の微生物が自然のサイクルを繰り返す。心地よいさえずりに誘われて視線を上げれば、木々の間には野鳥が飛び交う。標高が高く森に囲まれた稀有な立地もさることながら、ここまでありのままの自然と共存している蒸溜所は世界でも珍しい。

森の中の白州蒸溜所がリニューアルオープン

ウイスキーの原酒は、主に仕込み・発酵・蒸溜・熟成の工程を経て完成するが、蒸溜所の環境が味わいに影響しやすいのがウイスキー。自然環境が変われば、山からの恵みである水はもちろん、森の空気に長い年月包まれる熟成工程にも影響が及び、品質に変化が生じてしまう。ウイスキーと自然は表裏一体であるからこそ、白州蒸溜所では「自然との共生」を最優先に考えられているのだ。開所時からのコンセプトが「森林公園工場」であることも頷ける。
そんな白州蒸溜所が、50周年の節目を迎える2023年10月にリニューアルオープンし、蒸溜所見学も再開する。この機会に、地元が誇る銘酒の故郷を訪ね、自然が育む味わいの魅力について探ってみよう。

「水の狩人」を唸らせた、森と大地に磨き抜かれた仕込み水

サントリー2代目社長の佐治敬三氏は、山崎蒸溜所に続くモルトウイスキー蒸溜所の地を求めていた。特にこだわったのが自然環境と水だ。その実地調査に携わったのが、かつて山崎蒸溜所の工場長を務めた大西為雄氏だ。大西氏は全国を巡り、険しい山中に分け入って水の調査を行った。その姿は「水の狩人」と呼ばれたほどだという。
2人がたどり着いた理想の地が、南アルプス北麓にある山梨県北杜市白州町だ。南アルプスは花崗岩質層が特徴で、山に降り注いだ雨や雪は大地に浸透し、この花崗岩層をくぐりながら20年近くかけて磨かれていく。そして、ほどよくミネラル分を含んだ硬度30の軟らかな水となって地表へ湧き出る。この白州の水が、新たなウイスキーの仕込み水として採用された。

鳥は鳴き、木々は葉を茂らせ、ウイスキーは 森で熟成する

理想の仕込み水を使い、発酵、蒸溜の工程を経て樽詰めされた原酒は、森の中の貯蔵庫へと運ばれ、長い年月を過ごす。 貯蔵庫に入ると、蒸散した原酒の華やかな香りに包まれ、樽の中の原酒が呼吸していることがわかる。その土地の気候、風土の中で熟成を重ね、やがてウイスキーは森を思わせる香りをまとっていくのだろう。

白州の水と風土が唯一無二の味わいを生む

「今我々が仕込みに使っている水は、およそ20年前に南アルプスに降った雨や雪が地層をくぐってきたものです。水に加えて、熟成の環境やその他の工程、すべてが重なり軽快でおだやかな『白州』の個性が出来上がっています。開所から50年、自然への理解とおいしいウイスキーづくりの知見を蓄積してきましたが、今後もそれは継続していきます」と工場長の有田哲也さんは語る。 白州蒸溜所では今後もフロアモルティングや、酵母の自製化など原料の分野にも踏み込んでいく予定だ。自然と人、二人三脚のウイスキーづくりはこれからも進化を続けていく。

人とウイスキーが、自然の中で出合える、 「森林公園工場」がリニューアル

豊かな自然とシングルモルトウイスキー「白州」を 心ゆくまで味わえる施設としてリニューアルする白州蒸溜所。 その変わらない魅力と、新たなを愉しみ方を紹介する。
開設当時から自然との調和を掲げてきた白州蒸溜所は、今回のリニューアルにあたって「人と自然と響き合う」というサントリーの企業理念をより体現する場所として新しくなる。
開設当初から敷地内に併設された野鳥の聖域「バードサンクチュアリ」には、天然木材を使った遊歩道が整備され、自然散策を愉しめるようになるほか、白州蒸溜所と天然水工場の共通のエントランスとしてのビジターセンター『白州の森エントランス』を開設。バードサンクチュアリに繋がるブリッジも建築するなど、大幅リニューアルを予定している。

「白州」の森に包まれながら、森の香りのウイスキーを愉しむ

蒸溜所見学ツアーでは、シングルモルトウイスキー「白州」を実際に試飲することもできる。森の若葉のようにみずみずしくフレッシュな香り、爽やかで軽快なキレのよい味わいは、蒸溜所を囲む森の空気を彷彿とさせる。 リニューアル後からは、新たなテイスティングラウンジで森を望みながらその風味を感じられるほか、地元山梨県北杜市の食材をふんだんに使ったペアリングセットとのマリアージュも愉しめる。また、蒸溜所ならではと言える原酒のテイスティングも可能で、再開を心待ちにしていたファンも多いだろう。 森と共生し、ウイスキーを育み続ける白州蒸溜所。ぜひ一度足を運び、一滴に込められた悠久の時間を感じてみたい。

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