野外保育の先進県・長野県の信州やまほいく特化型認定園であり、 移住家族にも人気の『野外保育森のいえ“ぽっち”』を訪ねた。
森の中を行くと、子どもたちの声が響いてくる。少し開けた場所に、木造りの園舎があり、 20名ほどの園児たちが自由に遊ぶ。富士見町の豊かな自然をフィールドに
した『野外保育森のいえ〝ぽっち〞』は、森そのものが遊び場で学び舎。
切り株に座って始まる朝の会もお昼ごはんも、子どもたちは1日の大半をこの森の中で過ごす。
「セミが木に登ったよ!」数日前に土から出てきたばかりのセミが今日は木に登っている。子どもはそんな羽化の過程をごく自然に目にし、命についても学ぶ。
大きい子が小さい子の手を引いて遊具遊び。
子どもたちに「まっちゃん」と呼ばれる園長の松下妙子さんは、30年ほど前、結婚を機に大阪から富士見町に移住。自身の子育てを通じて、地元の子育て支援に関わるようになった。「長男が生まれて、森の中で野外保育を行う幼稚園の週末プログラムに参加したのですが、森の中という環境が心地いいのはもちろん、保育者である大人が管理的ではなく、子どもの力を信じて関わっていることに感動しました」。実際、息子も他の子どもたちも親が思う以上にいろいろなことを深く考え、行動することができるということを知り、そのことに自身の子育ての悩みも救われたという。「年齢ごとに同じことを学ぶ日本の教育では、どうしても優劣が生まれ、それが親の悩みや孤立にもつながります。でも、まずは、ありのままでいいよ、その上でみんなで心地良く過ごすためにはどうしたらいいかを子ども自身が体験的に知ることが大切。その実感を当事者として発信したいと思いました」。そんな思いを軸に、当時のママ友たちと、「ふじみ子育てネットワーク」を立ち上げ、2007年にNPO法人化。2010年から『野外保育森のいえ〝ぽっち〞』を開始した。
森の中で自由に遊ぶ子どもたち。
遊びもけんかも、子どもが自分で考えて決めたことを大人は邪魔せず、見守ってサポートするのが役割だ。
自然がくれる“本物の体験”が子どもの非認知スキルを育む
大人が思う以上に、子どもは自分の力で好きなことや得意なことを見つけていく。
焚き火調理の日は、包丁で野菜を切るのも子どもたちの役目。大きく切る子、それを細かくできる子など、それぞれの得手不得手に合わせて、大人がサポート。
〝ぽっち〞での保育は、年長児から2歳児までの縦割り制だ。「子どもたちは自分のペースで、年齢に関係なく自由に遊びます。そのなかで自然に上の子が下の子を助け、コミュニケーション力も育ちます」と松下さん。子どもたちと一緒に昼食を作る毎週水・木曜の焚き火調理の日にも、敷地の畑から野菜を収穫してくる子、野菜を切る子、その横で葉っぱのおままごとに夢中な子など、どの子も自分のできること、したいことを自由に楽しむ姿が印象的だ。
子 どもの話をじっくり聞く松下さん。例えばけんかしても「どちらかが悪い、だから謝ろうね」ではなく、意見を伝え合う仲介に徹する。
今日の焚き火料理はお好み焼き。
「おいしいよ!」とどの子ももりもり食べる。
そんな子どもたちを笑顔で見守りながら「森の中には、子どもが育つために必要な全てがある」と松下さんは言う。「常に変化する自然がくれる多様で本物の〝体験〞は、子ども自らで考え、決断し、行動する力といった、今の社会に必要とされる〝非認知スキル〞を育みます」。大人は自然の中での安全を守り、口も手も出し過ぎないことが大事だとも。子どもたちの〝生きる力〞は、今日も森の中ですくすくと育っている。
森の中でお昼ごはん。
水・木曜以外は持参したお弁当 をここで食べる。
DATA
野外保育森のいえ“ ぽっち”
【エリア】長野・富士見町
【電話】0266・62・7254
【住所】長野県諏訪郡富士見町境10574(小六石入る)
【その他】fukosnet.com
この記事を取材した人 カメラマン 篠原幸宏 1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。