登山で訪れた南米や北米、縁あって暮らすようになった八ヶ岳で 「ないものは自分でつくる」ことの楽しさを知った細野さんが取り組むセルフビルドの家。
家族のスタイルに合わせてつくり続ける家づくりは、まだまだ終わらない。
海外と八ヶ岳で磨いたものづくりの精神
原村の田園風景の中にひっそりとたたずむ古い一軒家。「ようこそ!」と元気に出迎えてくれたのは、ここでゲストハウス『Yatsugatake Small House(以下:スモールハウス)』とマフィン専門店『Oven Works』を営む「ほっさん」こと細野浩二さんと千恵さん夫妻だ。
ほっさんが八ヶ岳に移住したのは2006年のこと。「ずっと、北米や南米で登山をメインにしながら旅をしていました。ホームステイ先でDIYや農園作業を手伝いながら。あちらではなんでも手づくりが当たり前で、自然に自給自足のマインドが身に付きました」と話す。
ゆったりと広く取られたリビ ングダイニングは
開 放感抜群で、子どもたちも大半の時 間はここで過ごしている。
尊敬する遠藤棟梁から 受け継いだ柱や梁は、雪が降っても重みで崩れることがないという 在来工法の折置組(おりおきぐみ)工法で作られている。
日本へ戻り、自給自足の暮らしを志していたところ、知り合いから八ヶ岳の『カナディアンファーム』を紹介されたことが、ほっさんの人生の転機となった。「カナディアンファームのハセヤン※のもとで3年間、住み込みで働いて野菜づくりや家づくりを学びました。住んで働いて、ものづくりをしていくうちに、それまで知らなかった八ヶ岳という地にほれ込んでいました」。
食事の支度はみんなで行うのが細野家のルールだ。
その後、千恵さんとスモールハウスとなる家を借りて住み始めたほっさん。「拾ってきた木材や廃材で、自分なりにリフォームしていたら、大家さんから『もう君たちのものだね』と言われたので(笑)、買って、しっかりと直し始めました」。『カナディアンファーム』では、リサイクルビルディングの先駆けとして蔵や家の解体を中心に行い、その廃材を使ってツリーハウスなどをつくることが多かったため、自分たちの住まいをつくる時にも、その技術が十分に生かされたと話す。「海外に劣らず、日本のものづくりの技術は素晴らしい」と語るほっさん。今では彼のライフワークとなっている。
※『カナディアンファーム』の創始者である、長谷川豊さんの愛称。
サウナ小屋の中にある、
子どもたちのスペースはまるで秘密基地のような小さな空間。
暮らしながらつくる 〝未完成〞のマイホーム
スモールハウスのほど近くで、ほっさんはもともと森だったところを自分の手で切り開き、一から自宅をセルフビルドしている。自分で切り出した木を製材し、半月ほど寝かせてから使うという。「実際に木を切り始めたのはもう8年も前のこと。いまだに完成はしていません」と笑いながら話す。
楽しみながら2人で読書。
庭の一角につくられたサウナ小 屋。
母屋の横にあるのは、温泉とサウナ好きが高じて作ったサウナだ。 「いろいろな温泉やサウナを訪れるうちに、いっそ家に作ってしまおう! ということになって仲間と一緒に作り始めました。こちらもまだ未完成で、作りながらサウナを満喫しています(笑)。しっかりと温まった体で雪にダイブするのは、最高ですよ!」という言葉に、思わずこちらもワクワクする。
ほっさん自慢のサウナ。杉の芳香が心地よく、心身ともに癒やされる。
「最初はゼロでも自分たちで作ることで、100%完成じゃなくても120%の満足感があります。今日はここを直そうと家族で話しながらひとつずつ作っていくのが本当に楽しい!」。今後は石窯を作るのが目標だとほっさんは笑う。
一家が笑顔で日々を過ごせるのは、彼のあくなき探究心によるところが大きいのだろう。
千恵さんは、大阪のカフェ やレストランで腕を鳴らした料理人で 、その実力はお墨付き。『Oven Works』 は基本は木・金の11:00~ 16:00にオープン。
料理の技術を生かして丁寧につくるマフィン
スモールハウスの玄関の横には、千恵さんが営む小さなマフィンの店がある。なぜマフィンのお店を?と尋ねると「焼き菓子は作るのも食べるのも大好きだから。特にマフィンはいろいろな種類を作ることができて楽しいです」と千恵さん。店頭のガラスケースには焼きたてのマフィンが並び、どれもおいしそうだ。口に入れると生地の、サクッとした食感としっとりとした優しい甘さ、フルーツ本来の甘みや酸味がふんわりと広がる。「その時の旬のフルーツを使って、これとこれは合いそう、と思いながらレパートリーを考えるとどんどん増えていきます」と楽しそうに話す千恵さん。「毎日違うマフィンを朝ごはんに、スモールハウスに泊まる人もいますよ」という言葉にも納得だ。
右からキャラメルバナナ、抹茶とホワイトチョコ、アップル& アールグレイ各¥430。店頭のほ か、イベントでも販売している。
2017年に宿泊施設としての認可を受け、1組限定の貸しコテージとしてオープ ン。ここもまた廃材を巧みに利用してリフォームした。
住みながら改装を重ねた愛着のある住まいを宿に
細野さん夫妻がスモールハウスを営むことになったのは、「人と出会い、話し、もてなして対価を得ることはうれしい仕事だと思ったから」だという。室内は懐かしい雰囲気の居間が広がり、手作りのキッチンや風呂もついている。「家族で住みながら、少しずつリフォームを重ねてきたところだから、愛着があります」。そのぬくもりがゲストにも伝わるのか、旅の拠点として、暮らすように連泊していく人も多い。
「八ヶ岳に住んで、自然とはもちろん、人とも深く付き合っていく楽しさを知りました」と、ほっさんと千恵さんは顔を見合わせる。「教えてもらったことが糧となって、今の暮らしにつながっています。家づくりは究極のアウトドア。家族の成長に合わせて変化していくから、終わることはないですね」。
ワンルームの広々とした空間は居心地抜群。
大きなベッドはゆっくり眠れると好評で、家族や仲間と連泊する人も多いという。
Family Data
【Name】細野浩二さん、千恵さん、詩乃さん、朱音ちゃん、樹生くん
【Date】2006年12月
【Living style】完全移住
【job】ゲストハウス、マフィン店運営
浩二さんは岐阜県出身。登山をメインに、「自給する暮らし」を志して国内外を旅行。北米や南米では登山の合間に農園など居候し、DIYも体験。帰国後さらに技術を身に付けたいと「カナディアンファーム」へ。2017年にゲストハウスオープン。
DATA
Oven Works
Yatsugatake Small House
【エリア】長野・原村
【電話】080・4739・0629(Oven Works)
【住所】長野県諏訪郡原村柳沢18820
【営業時間】11:00~16:00(Oven Works)
【定休日】月、火、水、土、日(Oven Works)
【他】instagram.com/oven_works/
instagram.com/yatsugatake_small_house/
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 堀宏之
愛知県出身。その一瞬を捉えるカメラマン。ベストショットを求め八ヶ岳でも活動をおこなう。