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“木の良さを広めたい”
木工職人の夫婦が選んだぬくもりある暮らし

2024.8.30 暮らす

 削り出した刃の跡や手仕事の跡を残し、木と手のぬくもりを感じられる、素朴な木工品の製作を目指している「工房チセ」の坂井夫妻。暖かく見守られながら家族と育む集落での暮らしについて聞いた。

「木の声」を聞いて作る 世界に1つの木の器

 カタンッ、カタンッと足踏みする音、ガリガリッと木を削る音が響くのは、茅野市宮川地区にある「工房 チセ」の作業場。自作の足踏みろくろを操るのは工房の代表で木工職人である坂井恒存さんだ。


 「木のクセをねじ伏せて整えるのが家具作りだとすると、これは真逆のことをしていますね」と、飛騨高山で家具作りを勉強した恒存さんは話す。なぜなら、今削り出している木材は全て生木であり、乾燥の過程で変形が避けられないものだから。木のゆがみで使い勝手が悪くなることなど、家具だったらあってはならないことだろう。しかし恒存さんには「木らしさがあるもの、木の温かさの伝わるもの、そういうことをやりたい」という思いがあった。そこでチャレンジしたのが、生木と足踏みろくろを組み合わせた食器作りだった。作り続けるうち、その風合いが素晴らしいと実感し、試行錯誤しながら製品作りを進めていった。


 コップなどは木が自生していた上下の向きに合わせて削り出すため、乾燥しても水分を吸い上げる道管から水分が漏れるという。その場合は、漆を塗布することで器として成立させた。また、皿などは年輪に垂直に切り出した板の状態から削るため、乾燥時の変形が予測しづらい。その場合は、おかくずの中でゆっくり乾燥させながらゆがみに応じて形を整えることで製品に仕上げていった。
 「木が動きたいように動いてくれるのが楽しい」と、坂井さん。陶芸家が焼成時の縮みを予測するように、生木の性質を予測しながら削り出す。唯一無二の器がここで誕生している。

運よく見つけた蔵で 木工の仕事を極める

 飛騨高山で家具やおもちゃ作り、愛知県の「工房塩津村」で家具製作などの修行をした後、独立して「工房 チセ」を開いた恒存さん。有紀さんも東京で木工を学び、大分のアトリエを経て「工房塩津村」へ。この時、修業仲間だった2人だが、恒存さんが一足先に
茅野市に拠点を構え、結婚を機に有紀さんが合流した。場所は東京も考えたが、田舎が好きなこともあって山梨や長野を検討。そこで出会ったのが宮川地区の元寒天用の倉庫と土蔵という、天然角寒天生産量の全国シェアを誇る諏訪地域ならではの物件だった。古民家などが好きな有紀さんも、昔ながらの集落をすぐに気に入ったそう。


 木工職人とあって、坂井家は木に囲まれた住まい。素朴な木のあたたかな質感が、一家を優しく包み込んでいる。
 娘のふみちゃんが生まれてからも、地域の人とのつながりを実感しているという恒存さん。「移住当初から近所の方々には温かく見守ってもらえて感謝しています」と、笑顔で話す。蔵暮らしを楽しむ坂井家の穏やかな毎日はこれからも続いていく。

Family Data

【Name】坂井恒存さん、有紀さん、ふみちゃん
【Date】2015年4月
【Living style】完全移住
【job】木工職人

アイヌ語で「お家」という意味を持つ「チセ」を屋号に掲げて活動する坂井さん夫妻 と娘のふみちゃん。夫婦2人ともに木工職人のため、家庭には木工品があふれている。そんな暮らしに役立つ身近な小物作りにも、今後、力を入れていくとのこと。

DATA

この記事を取材した人

ライター 小嶋かおり
愛知県の山間部出身で、自然のなかで遊ぶことが大好き。それゆえ八ヶ岳の人々の暮らしに興味津々で取材をしている。

カメラマン 松本幸治
鳥取県米子市出身。
2001年よりフリーランスカメラマンとして活動。
現在、愛知県を拠点に活動中。


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