
人が好き、仕事が好き。でもひとりになりたい時間もある。 そんな願いをかなえてくれる森が富士見に誕生した。 自然とつながりながら自分自身を見つめ直せる、そんな至福の場所だ。
自分自身を開放できる
おひとりさまの森づくり
家族や仲間と訪れる八ヶ岳も楽しいが、たまには緑に囲まれながらひとりで穏やかに過ごすのも悪くない。そんなぜいたくで豊かな時間を楽しめるのが、富士見の森にある『森と、ピアノと、 』だ。


オーナーの石島知さん、廣瀬明香さん夫妻がこの森と出合い、東京から茅野へ移住したのは2023年4月のこと。廣瀬さんは、それまで薬剤師として健康に携わる仕事をしながら、本当の意味での〝生きること〞を考え続けていたという。

「長生きするために自分の好きなことや嗜好品を我慢する、それが本当の幸せかな?と思って。薬剤師の知識を生かしながら、楽しく豊かに生きるためにできることを考えていました」。コロナ禍で夫妻のリモートワークが増えたこともきっかけとなった。
「夫が仕事でオンライン会議をする時は私がベランダに出て過ごし、外の景色を眺めながら、東京には私が求める自然がないと実感しました。昔から私はひとりで過ごす時間がないとバランスを崩してしまうタイプ。自然の中でひとり誰にも邪魔されずに小さい頃から好きなピアノを奏でたい、その思いが強くなりました」と廣瀬さん。
「でもいざとなると、どこがいいのか分からなくて。休みのたびに電子ピアノを担いであちこち巡りました」。そうして、出合ったのがこの森だ。「さわやかな風や小鳥のさえずりに気持ちがほぐれました。ここならリラックスして、ピアノを思う存分弾けると感じました」。


落ち着く場所を探すため、実際に森へピアノを持参する廣瀬さん。

穏やかな空間の中でピアノや楽器を奏でる喜びは、都会では得られないもの。
この森を訪れることができるのは、おひとりさま限定だ。理由を尋ねると「人は相手に喜んでほしいという思いがあるから、例えば家族の前では母親や妻としての役割を演じなくてはならない。たまにはその役割から自分を解放してあげることも大切です」と廣瀬さんは話す。
「この場所に来たいと思う人は、きっと普段、周囲に気を使いすぎている人。だからこそ、ひとりになって自分と向き合い、自分が豊かになれることや忘れていたことを思い出して、心を育んでほしいと思っています」。

森づくりを通じて
仲間や地域とつながる
ひとりの時間を楽しむ森は、廣瀬さんと石島さんが仲間や地域の人々と一緒に、時間をかけながら整備してきた。「これまでに100人以上の人に手伝ってもらっています。整備の方法は〝あくまでも森が主役〞をコンセプトに、森そのものを再生しつつ、建物も風景に溶け込むように作っています」。建物も同様にこだわった。

上棟式の様子。「自然の素材を使って自然に溶け込む建物にする」をテーマに、地元の人たちの力も借りながら森と建物を整備。
「地元の人たちの思いとつながっていたい」と、地域の素材も取り入れている。例えば、長野の職人が手掛けたという屋根。その茅葺きに用いたススキは地元のものだ。
「森は湿気が多いから、時間がたつにつれて茅葺きがこけむしてきます。まさに森に育てられる建物です」と石島さんと廣瀬さんは笑顔だ。



また「いつかは地域の宿泊施設や飲食店とも連携しながらできることはみんなで分担して、一緒にゲストをお迎えできるようにしたい。訪れる人も、私たちも、地域もここの自然と森によってつながり、育っていけたらと思います」。

【Name】石島知さん、廣瀬明香さん、叶和ちゃん
廣瀬さんは東京で薬剤師として働きながらアロマやハーブについても勉強した。移住後、石島さんとともに「株式会社とわいろ」を設立。石島さんも自身の会社「株式会社Kotobito」の代表取締役を務める。
DATA
森と、ピアノと、
とっておきのおひとりさま時間
【エリア】長野・茅野市
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 武田かよ
愛知県出身、東京都在住。ペットや家族をテーマに活動中。風景や星空もこよなく愛し、自然豊かな八ヶ岳との二拠点生活を夢見ている。