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土と水、命のつながりを尊び、力のあるタネを育てる<そらくも農場・鈴木啓志さん>

2025.10.24 働く暮らす
鈴木さんの活動
おいしい作物を育む土づくりに、近隣のキノコ農家で出る廃菌床や、尾白川の落ち葉を活用し、資源の地域循環を推進。より良質な作物作りと地域の農環境を守るため、米・大豆・小麦を同じ土壌で輪作する新たな取り組みに挑戦中。

太陽の下、大地に働きかけてきた手はこんがりと日焼けし、数えきれないほどくわを振るい、命を育んできた指にはたくましさが満ちている。「機械化で仕事は効率化しますが、農作業の基本は人の手。手の力は無限です」。


ほほ笑みながらそう語るのは鈴木啓志さん。南アルプス甲斐駒ヶ岳の麓にあり、ミネラルを豊富に含んだ天然水の郷、北杜市白州町。空と山の鮮やかな景色が広がる里山に、鈴木さんが暮らし始めたのは今から30年ほど前のことだ。


とある人の勧めで、かつてこの地にあった「身体気象農場」と巡り合い、多い時には数十名の仲間と共に、田畑を耕し自給自足の生活を営んできたという。植物の目線に立ち、体を使って農に励んだ日々が「今を生きる心を育ててくれた」と当時を振り返る。


後に農場は解散し、12年前に農家として独立。現在は、米や大豆、季節の野菜を有機栽培で手掛け、 多くのリピーターが旬の到来を待っている。これら作物を作る基本の土づくりには、尾白川渓谷の落ち葉やキノコ農家の廃菌床を集めて活用、地域内で資源を循環させている。また、一般的には利用されることの少ないもみ殻を、鈴木さんは米ぬかと混ぜ、たい肥化し田畑の肥やしにしている。「葉や茎、殻の部分にも養分はあるので、できるだけ元の土に還す。その上で、不足した分を良質な有機肥料で補っています」。

現在、鈴木さんが力を入れているのが、同じ土壌で陸作の大豆と小麦、水作の米を輪作する有機的な取り組みだ。田んぼの水には土の洗浄効果があるため、その後に植えた大豆や小麦も病気にかかりにくい。一方、陸作で土に空気が入ることで、その後植える米にも養分が回る他、雑草の抑制効果もあるそう。農薬や化学肥料に頼らなくても、土と水、命の有機的なつながりを大切にすることで、滋養のあるおいしい穀物を継続的に作ることができる。

取り組みを始めて3年がたち、確かな手ごたえを得た鈴木さんは今、「そらくも農場」の法人化に向けて動き出した。個人経営が主の農業は、経験を通して培った技術やビジョンが継承されず途絶えてしまうことも少なくない。「僕が何かを始めようとするたび、親身になって助けてくれた師匠がここにはたくさんいます。だからこそ、ここで一生生きていこう、その思いで農家になりました」と語る鈴木さん。法人化によって 仲間を増やし、ビジョンと技術を伝えていくことは、地域の農環境を維持することにもつながる。


最後に鈴木さんが米や大豆、小麦といった穀物にこだわる理由について尋ねた。「穀物はタネそのもの。力のあるタネを食べることで、体が丈夫になると信じています。体が求める、本当のおいしさを作り続けたいですね」。

【Name】鈴木 啓志(すずき けいし)さん
建築関係の大学を卒業後、海外を旅するバックパッカーを経て白州町に移住。2013年より、自家製堆肥と有機肥料の組み合わせで、体にも環境にも優しい米や大豆、野菜を作る「そらくも農場」を営む。
この記事を取材した人

ライター 中森千亜季
八ヶ岳の自然と暮らしに魅せられて、東京から八ヶ岳西麓へ移住。薪を割り、庭を整え、暮らしを手作り中。


カメラマン 石塚実貴
1984年生まれ。制作会社や広告代理店を経て2013年フリーランスとして独立。雑誌・広告等を中心に活動中。

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