夫婦ともに木工家具作家という西山さん。 気持ちいい環境で仕事がしたいとの思いから見つけた 理想の場所で、家族の幸せを紡ぐ。
青い空を背景に、古い校舎のような佇まいが印象的な平屋の建物。横浜から移住した木工家具作家の夫妻、西川元気さんと美月さんの工房『木工yamagen』だ。「移住を考え、仕事場になる工場が欲しくて探していた時に、たまたま通りかかって見つけたのがこの建物。ひと目見てピン! ときて、そのまま大家さんを訪ねて『ここがいい!』って決めました」と元気さん。その後、すぐ近くに家族の住まいも借りることができた。
房の窓からの風景もお気に入り。「納期は変わらないのに、気持ちに余裕が生まれてしまう。山にだまされてます」と笑う元気さん。
房前にある 『木工yamagen』の看板。「オープンデー」も開催予定で、見学や家具オーダーの相談なども受け付ける。
しかし、そもそも建物との出合いがなければ、富士見町は移住候補地になかったという2人。田舎暮らし自体が初めてで、地域のこともほとんど知らないまま移住することに不安もあったという。「でも、移住してすぐに御柱祭があり、大家さんが参加を誘ってくれたんです。そこで地域の人にあいさつができて仲間に入れてもらいました。近くに同世代の人もたくさんいて、皆さん、本当にいい人で。御柱祭自体、7年に一度のことなので縁を感じました」。偶然の出合いとそこからつながる縁やタイミングで、西山さん一家の新しい暮らしは順調に始まった。
働き方が変化してもう都心にいなくてもいいと思った
『木工yamagen』のマスターピース「Crescent chair」。鉄媒染で黒く染めたチェ リーやブラックウォールナットなど、材質や色は相談可能。丈夫で座りやすく、三 ケ月をイメージした座面も美しい。1脚 ¥132,000
移住前も横浜で10年間、『木工yamagen』としてオーダー家具の受注製作を行ってきた西山さん夫妻。2人が移住を考え始めたのは、働き方の変化が大きかったという。「インスタグラムやホームページを見て、ネット経由でお問い合わせや注文をいただく仕事が増えてきて。もう都心にいなくてもいいんじゃないかって思い始めたんです。子どもたちも小学生になるし、移住するなら早いうちがいいと思いました」と美月さん。元気さんも「とにかく気持ちのいい環境で仕事がしたかった。移住よりも移転したいという気持ちが先でしたね」と話し、その思いが先述の移住先との出合いにつながっていく。
こちらは「Crescent stool」1 脚¥46,200~。
移住後に生まれたデザイン、御柱祭がモチーフの「Pillar stool」 ¥99,000。
現在、地元の小学校に通う長男の丈くんと次男の晴くんも、移住してすぐに友達ができ、毎日遅くまで外で遊んでくるという。仕事場と自宅が近く、子どもたちが自由に行き来できる環境だが、これも移住前にはなかったことだ。「親が働く姿を見せられるのもいいですし、木に触ったり、木を切ってみたがったり、創る楽しさに興味を持ってくれるのがうれしいですね」「夜が暗い、星がきれい、冬が寒いといった当たり前の自然を、ここでは子どもと一緒に共有できる。子どもたちが大きくなっても山登りやキャンプに行ったり、ずっとつながり続けられる気がします」と2人はうれしそうだ。
高校を卒業後、ミュージシャンを目指していた時期もあった元気さん。ここで知り合った音楽好きの仲間と“音”を出して楽しむことも
「おかえり~」。学校から帰ってきた次男の晴くんを家族みんなで出迎える。
工房にお邪魔すると、家具作りに必要な道具が並ぶ作業場と、その隣の部屋には代表作の椅子や佐久のホテルに納品予定というテーブルなどが置かれていた。「これまでよりずっと木を身近に感じています。今までも伐採以外、自分たちで作ってきたけれど、いつか地元の木で伐採から仕上げまで、全て自分たちの手でやってみたいですね」。仕事も家族の時間も、確実に豊かさと幸福度を増した西山さん一家の移住。気持ちのいい暮らしは、この場所で今日も続いていく。
工房前に広がる原っぱにて 笑顔の西山さん一家。
「子どもたちが毎日楽しそうで。来て本当に良かったです。」
Family Data_Case 5 【Name】西山元気さん、美月さん、丈くん、晴くん 【Migration】完全移住 神奈川県→長野県諏訪郡富士見町 【Working Style】八ヶ岳へ自営業の場を移す 川崎の家具製造会社で出会い、結婚を機に、夫婦で オーダー家具の受注製作を行う『木工yamagen』とし て横浜で独立。2023年3月に移住。 木工yamagen 【エリア】長野・富士見町 【電話】0266・78・3057 【住所】長野県諏訪郡富士見町富士見8033-1 【その他】mokkouyamagen.com instagram.com/mokkouyamagen/
この記事を取材した人 カメラマン 篠原幸宏 1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。