9 歳の聖さんが披露してくれたのは 、 独特の構図とタッチ、色使いで描かれた生き物たち。 自分らしく生きられる八ヶ岳で、子どもの才能が伸びていく。
大人が自由 だから子どもたちも 自由でいられる
絵を描き始めて間もなく本人が「画家になる」と宣言。
「どうして?」と聞 くと「ぴったりだから」と答えたというエピソードも。
2011年の移住後、建築分野の弘司さんは地域のホテルで施設管理に従事。通子さんはそれまでの経験を生かしてカフェのイベント担当、地元発ウェブマガジンの編集長を務めた後、フリーランスに。「星空の映画祭」などのイベント、コミュニティー作り、洋裁など何足ものわらじを履いている。
「職業や肩書を超え、『みっちゃん』として生きることがここではできる。大人が自由だから子どもも自由でいられます」と通子さん。そんな環境のもと、子どもたちの才能が開花していった。
独自の世界観を持つ聖さんの絵。
初の作品展に 次ぐ企画も動き出している。
描くのは動物を中心とした生き物たち。画材はフェルトペンや色鉛筆、アクリル絵の具の他、ボールペンも使う。
移住時は4歳、現在 歳の長女・翠さんは幼少期から、聴く音をそのまま表現できる特技と美声を持ち、小学生時代は原村の合唱団や多彩なイベントで活躍。八ヶ岳ゆかりののアーティストが集うコンサート「ヤツガタケSTREAM」に参加し、UAさんのバックコーラスを務めたのは12歳の時だ。以降、有名企業のCMでも活躍している。
多才な通子さんは翻訳家として の顔も持ち、出版されてい る詩の翻訳共著本の朗読 会も開催する
通 子さんの洋裁コーナー。移住後に仕事をしながら洋裁を習い、その時の仲間3人で組んだユニット
「Mother’s Circle」でナチュラル素材の服の展示販売を行っている。
一方、移住後に低出生体重児で生まれた次女・聖さんは成長がゆっくりで、「思いを表現できないもどかしさからか、暴れたりわめいたり、育児に苦労しました」。それが3歳頃にふっと収まり、絵を描き始めた。最初に描いたのは大好きな恐竜。独特の感性が際立ち、後に出会った絵の先生も「教えず伸ばす」スタイルで見守る中、のびのびと創作を続けた。そして2023年夏、アフリカンアートのペンキ画家SHOGENさんが「みんなに見てもらおう」と誘い、初のコラボ作品展を開催した。
※八ヶ岳デイズvol25の発刊以降、「第15回中村キースヘリング国際児童絵画コンクール」の北杜市長賞を受賞。また「EVERY CHILD IS AN ARTISTINTERNATIONAL VIRTUAL ART EXHIBITION curated by Tejashree and CREATIVE KIDS」(インド 国際児童アート展覧会)の金賞を受賞。
開放された環境と 人間関係の中で子育て
家の前にある、自然と一体にな れるような木のブランコは弘司 さんの手作り。
聖さんお気に入 りの遊び場でもある。
移住のきっかけは「東日本大震災で都市機能の脆弱さを実感した」こと。以前から「子育てするなら田舎がいいね」と夫婦で話していた。かつて通子さんが米国ニューメキシコ州のネイティブアメリカン居住地で生活した経験からだ。「原村は前に訪れて気に入っていたし、車で走りながら見た八ヶ岳の雄大さ、太陽に近い感覚、開放感に、私たちの居場所と感じました」。
四季の恵みを感じる日々。
通子さんが敬愛する、米国の哲学者で建築家のバックミンス ター・フラーが発明・考案したドー ム型の家。裏には斜面になった庭 が広がる。整備は友人のきこりが 、山 道 を切り開く時の残土を出さない工法で。
その直感は正しかったといえるだろう。「イベントの多い八ヶ岳はチャンスに恵まれ、地域を超えて子ども同士も、大人も友だちになれます。年齢の壁もなく、子どもであろうと対等に付き合い、本気でサポートしてくれるのもこの地ならではです」。
現在、翠さんは東京の芸術高校に通っており、普段は3人暮らし。聖さんは学校から帰ると、明るいリビングで日々創作に没頭する。
住まいは移住から3年がたつ頃に新築したユニークな空間。多くを弘司さんが手作りで仕上げており、着手から9年たつ今もメイキング中だ。暮らしながら出来上がっていく住まいもまた、「こうでなくては」という縛りがない。周囲の自然と相まって、ここには感性が育つ環境が確かにある。
メイキング中の家は 秘密基地のよう。
固定化されない生き方が可能な場所です」と 通子さん。
DATA
Family Data_Case 8 【Name】堀之内弘司さん、通子さん、 翠さん、聖さん 【Migration】完全移住 東京都→長野県諏訪郡原村 【Working Style】現地で就職&フリーランス 弘司さんはホテルの施設管理部門に就職。通子さん はフリーでイベント企画運営、コミュニティー&シェア サロン「Come Come Gallery yt」主催など幅広く活動。 【HP】 instagram.com/ark_of_sei/ instagram.com/comecomegalleryyt/
この記事を取材した人 ライター 石井聖子 岐阜県生まれ。デザイナー、在仏日本人向け新聞の編集者などを経て、フリーのライターに。 カメラマン 荻野哲生 1986年生まれ。旅する写真家。「写真からストーリーが伝わるように心がけています」。