
クラインガルテンとは、ドイツ語で「小さな庭」、滞在型で楽しむ農園のことだ。都心との二拠点生活が楽しめ、今、注目を集めている。
クラインガルテンがつくるつながりを大切にしている夫妻を紹介する。
田舎生活の夢をかなえる
クラインガルテンに参加
「南アルプス市、北杜市、韮崎市など、この場所と出合うまで100軒以上もの土地を探しました」と振り返りながら静かに話す扶瀬聡史さん。古くからの家が立ち並ぶ一角に広がる大きな畑。扶瀬さんは妻の亜矢子さんとともに、ここでクラインガルテン『and farm』を営んでいる。

宿泊施設の外観。現在は1組限定だが、2組利用できるようにリフォーム中だ。

400平方メートルの広さの畑は日当たりがよく、作物がよく育つ。
そのきっかけとなったのはコロナ禍だ。「2人ともワインが好きで、生産者のところへブドウの収穫を手伝いに行ったり、北海道でワイナリーステイを楽しむうちに、こういった場所で人生を過ごしたいと思うようになりました」。
コロナでリモートワークが増えて、ますますその思いは強くなったという。しかし、農業未経験のため就農のハードルが高く、経済面に不安を感じていたとも。そんな折、南アルプス市が行うクラインガルテンを見つけてさっそく参加。短期滞在で農業を楽しむうちにその魅力に取りつかれた。

野菜だけでなく、土が身近にある生活自体が本来の人間の生き方を思い起こさせてくれる。
「クラインガルテンで築くコミュニティーや暮らしが新鮮で楽しくて、自分たちでやろうと思いました」。その後、扶瀬さんたちは南アルプス市に本格移住。古い集落にあった空き家を活用して、韮崎で宿泊施設も備えた会員制の滞在型農園『and farm』を立ち上げた。

半年以上探して見つけた韮崎の古い民家をリフォーム。間取りは自分たちで設計した。「土間は地域に開かれた場所にしていきたい」(扶瀬さん)。


クラインガルテンの宿泊施設内はシンプルでナチュラルな家具が配され、ゆったりとした空間。和室も備わっている。
クラインガルテンの魅力は、農業に携われることももちろんだが、そこで出会う人とのつながりもあると扶瀬さんはいう。「人生の中で、自分と異なる背景を持つ人と出会うのはそんなに難しくありませんが、同じ価値観を持つ人と出会うのは難しい。ここでは、お互いに違う仕事や背景を持った同じ価値観を持つ人たちが集まり、農業というひとつの作業を通してつながることができる。そこが興味深い」。



クラインガルデンの畑ではトマトやナスをはじめ、とうもろこしや葉物野菜などどんな野菜も栽培できる。理仁くんも野菜の収穫に興味津々。土や自然に触れることは都会ではできないこと。子どもの心も健やかに育つ。
また、想定外のことが起こるのも楽しいそう。「会社で働いていた時のように、ロジカルに話が伝わるのも手応えがあって面白いですが、ここへ来てから地元のお年寄りの方々とパッションで話すのも刺激的です」と扶瀬さんは話す。

南アルプス市の自宅での扶瀬さん夫妻。心地よい住まいでの暮らしに、家族の笑顔も増える。
新たな事業を通して
地域や観光客とも連携
2023年には、地元で収穫される新鮮な桃を消費者の元へ届けるという新たな事業『МoМo』をスタート。「繁忙期は忙しくて販路の開拓ができないという生産者の代わりに商社的な役割を果たせたら、と考えました。生産者にも消費者にも喜ばれるつながりを作ることができてうれしいです」。


2023年からスタートした『MoMo』では農家に代わって桃の発送作業も行っている。「皮まで食べられるほど安心安全でおいしい桃を届けます」(扶瀬さん)。
また昨今、日本に多く訪れる外国人を対象にした『LocalLocal』もスタート。こちらは『 МoМo』の桃の収穫や出荷作業を手伝う代わりに、宿泊を無償にするサービスだ。「海外の方は日本の農業に触れる体験ができて、農家も助かる。これも新しいつながりの形だと思っています」と扶瀬さんは笑顔だ。

『LocalLocal』では畑作業のほか養蜂などの体験も行う。「以前は国際的な仕事をしていたので外国人とのコミュニケーショ ンは得意。こうした活動を通して多くの人々との絆が増えたら」(扶瀬さん)。

民家の壁塗りを楽しむ外国人宿泊客。
『and farm』は会員制だが、空いている日は会員以外の人も利用できる。「似たような価値観を持つ人同士がつながれる場所を作り続けていきたい」と扶瀬さん。「八ヶ岳周辺はいろいろなことに取り組む人が増えている。住むエリアは違っても同じ考え方を持つ人たちで、八ヶ岳を軸にみんながつながっていけたらうれしいです」。

甲州街道。『andfarm』への旅路にて天候がよければ富士山も望める。東京から通いやすいのも利点。

【Name】扶瀬聡史さん、亜矢子さん、理仁くん
聡史さんと亜矢子さんはエネルギー関連の企業に勤務。クラインガルテンの魅力にはまり、2021年4月に南アルプス市に移住。
「ブドウ畑を作る夢もまだ持っています」と話すふたり。クラインガルテンを営む傍ら、東京にいた頃から育ててきたブドウの苗を大切にしているという。
DATA
and farm
- 【エリア】山梨・韮崎市
- 【他】and farmの公式サイトはこちらをタップ
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 石塚実貴
1984年生まれ。制作会社や広告代理店を経て2013年フリーランスとして独立。雑誌・広告等を中心に活動中。