
【NAME】佐多健太郎さん、愛加さん、木杜(こと)くん、胡桃(くるみ)ちゃん
福岡出身の健太郎さんと、大阪出身の愛加さん夫妻。 東京から移住し、カフェ&アトリエ「GEB」を2024年10月にオープンした。自分たちの手でつくることを楽しみながら暮らしている。
明るい里山の景色の中に現れる食とアートの拠点
2024年10月に北杜市にオープンした『GEB(ゲブ)』。佐多健太郎さんと妻の愛加さんが営むカフェ&アトリエだ。ふたりは10年ほど前から八ヶ岳山麓へ通うように。音楽配信会社に勤めていた健太郎さんは、知人のギタリストの実家が高根町にあったことで、彼の父親「いっちゃん」と仲良くなった。
移住を考える過程で、いっちゃんにも相談しつつ本格的に家探しを始めたという。ギャラリーや音楽ライブでアーティストを招くことを考えていたので、東京から「ギリギリ訪れたいと思える距離」の中で、雪が多くない条件に合うのは軽井沢か北杜だけだった。さらに、明るく開けていそうな場所を地図で探しては「地名 古民家」で検索。そこで見つけたのが陶芸家がアトリエ兼住宅として使っていたこの場所だった。

陶芸家が住んでいた建物をカフェとアトリエに。庭先にはストーブ用の薪が積まれている。近所の木工作家から端材をもらい受けて薪にしているそう。

全粒粉のアップルガレットパイ¥550。紅玉が手に入る時に提供している。りんごの下に詰めた濃厚なアーモンドクリームは甘さ控えめ。ホットコーヒー¥500とともに。
「僕たちにとってはいっちゃんの存在が大きかったです。丸腰で移住するより何倍も心強い。教えてくれた情報も、ここへ来る際の確かな〝足場〞になってくれました」と健太郎さん。

増築したカフェの厨房は注文窓口と兼用している。
実際に住んでみて、土地の持つ雰囲気の大切さを再認識したそうだ。気付けば人が集まってくる土地は、生活する上でも、店を持つ上でも大きな助けになっている。

アー ティストを招いて音楽イベントをすることもあるそうで、機材が置かれている。

ぬくもりあふれる店内。

お客さんも感動する野菜〝素材の味〞を楽しめるように
カフェでは健太郎さんが淹れるコーヒーと、地元の野菜を使って愛加さんがつくるブランチやスイーツが味わえる。

3種類のブランチプレートより自家製カンパーニュセット¥1,200(手前)。自家製カンパーニュ、野菜のソテー、マリネ、ソーセージに目玉焼きがつく。ドリンクやスープはオプションで注文可能だ。
愛加さんは移住前から、ケータリングやお弁当販売、カフェの間借り営業などさまざまな形で料理を表現してきた。「移住してからは遊びに出かけるよりも、この土地にたくさんあるおいしい食材を家で楽しむことが増えました」と愛加さん。

元は陶芸家が住んでいたため、陶芸の道具や窯が使える状態で残されていたそう。この設備を生かして夫妻自ら器も焼く。出来上がった器は料理の提供にも使用されている。
ブランチは野菜の味の濃さに驚く。それらは、北杜市の農家『soilship』をメインに、夫妻がここで暮らす中で出合った野菜たち。もちろん、野菜そのもののおいしさもあるが、愛加さんが身に付けた「水分コントロール・火入れ・塩加減」の技術も大きい。

ブランチメニューにつく野菜のソテー。この日は苦みの少ないベビーケールをメインで使用。
「野菜は使う前日に洗って表面の水分を取っておきます。それを業務用のコンロと鉄のフライパンで火入れすると味が凝縮します」と愛加さんは微笑む。

調味料や副原料に自家製が多いのは、自分の手でつくってみたいという実験精神から。香味野菜を数種類混ぜてつくる野菜こうじや、カンパーニュに練り込むドライトマト、フムスに入れるパプリカパウダー、ソーセージに添える粒マスタードなど、何げない一皿に手間を惜しまないことが、特別なおいしさにつながっている。

焼菓子は常時6種類用意しており、愛加さんの独創的な組み合わせで食感を追い求めた自信作が並ぶ。
コーヒーは、北杜市のコーヒー店『 YORI 』の焙煎豆をGEBオリジナルでブレンド。健太郎さんも自宅で起床後に味わっており、自然とマインドフルになる時間をつくってくれているそうだ。

『YORI』のコーヒーについて、健太郎さんは「エチオピアの爽やかな酸味とグァテマラのフルーティさの中にあるコクが心地よいおいしさです」と話す。

コーヒーは浅煎り、深煎り、デカフェから選べるので希望があれば伝えよう。
過去の経験も今の実験も生かして
庭にある半透明の小屋は、シャワー付きの宿泊棟だ。ツーバイフォーで組み、農業用フィルムを張っている。DIYにしては本格的なのは、健太郎さんが建築学科出身だから。「大学時代に予算があればやりたかった」ことだという。この小屋は、いずれアーティスト・イン・レジデンスでも活用したいと考えているそう。「カフェのお客さんやアーティストが出入りすることは、子どもたちにも確実に多くの刺激を与えると思います」(健太郎さん)。

元気一杯の木杜くんに思わず笑みがこぼれる。北杜市は子育て支援が比較的充実しており、佐多さん夫婦も日曜日などはファミリーサポートを活用しているそうだ。

カラフルなダイニングテーブルも自作。「気分が明るくなるように、心落ち着いて食事を楽しめるように、この色合いにしました」と健太郎さん。

靴を置く棚は健太郎さんがDIYしたもの。インテリアにほどよく調和している。

玄関を入ってすぐのスペースには、健太郎さんの音楽制作コーナーが。
こうした、自身でつくる試みは現在も続いている。「できるだけ自分たちで楽しんでつくるのは、実験するような感覚ですね」と健太郎さん。愛加さんも同じで「次はこんなパンをつくってみたい」「最近夢中になっているフードドライヤーでこの食材を乾燥させてみたい」「自家製ベーコンの次はパンチェッタをつくってみたい」と、アイデアは尽きない。



近くにある畑にもこの春から本格的に取り組む予定だ。「協生農法という、さまざまな植物の種をまくことで畑の中に生態系をつくり出す方法でやってみようと思っています」(健太郎さん)。また、ワイン用のぶどうをつくるための土地探しも始めたりと、食に関連したプランを少しずつ計画している。

自宅のキッチンは既存のシステムキッチンを取り払い、開放的につくり直している。
店という〝出し先〞があるからこそ、プライベートで試みる〝実験〞で一見無駄なことにも挑戦できると語る佐多さん夫妻。営みを単なる消費で終わらせず生産へと転換していくサイクルは、穏やかな里山の中でゆったりと循環して、今日も一家を育んでいる。
DATA
GEB
【エリア】山梨・北杜市
【住所】山梨県北杜市高根町下黒澤3828-2
【営業時間】カフェ 11:00〜16:00、ブランチ 11:00〜14:30
【定休日】不定休 ※Instagramにて告知
この記事を取材した人
ライター 栗本京子
大分県出身。2016年に東京から長野県に移住してフリーランスに。台所・料理・食べることが三度の飯より好き。
カメラマン 五味貴志
長野県茅野市出身。八ヶ岳エリアを中心に人や自然、暮らし、食、ものづくりなどの風景を見つめ、その一瞬を切り取ることを心がけている。
「写真を通して、人や地域の魅力が広がり誰かの人生が動き出すきっかけになったら嬉しいです」。