
おとぎ話に出てくるような宿をつくった山越さんは、これまでどんな人生を歩み、今どんな暮らしをしているのか――。
宿の近くにあるご自宅に伺った。
ただ、やめずにいたら13年が経っていた
山越典子さんが富士見町に土地を見つけるまでは、note「藤森旅館へつづく道」に詳しい。2004年、学生時代に藤森建築「高過庵(たかすぎあん)」を見て衝撃を受けたのが、事の始まり。
その後、アパレル会社勤務と自然食品店のアルバイトを掛け持ちし、マクロビオティックに出会う。自然豊かな長野の環境にも惹かれ、2009年、安曇野にあるリトリート施設「穂高養生園」への転職と移住を果たした。その後、ワークショップを通して知り合った藤森さんへ宿の設計を依頼。
機会があればどこへでも会いに行き、藤森さんの地元・茅野市への移住をするなど、3年間にわたり猛アピールを続けた。藤森さんからOKが出たのち、土地探しから開業までは育児と並行して気づけば依頼から13年が経っていた。ただやめずに坦々と過ぎた13年が、大きな夢を実らせた。そんな山越さんの暮らしを垣間見たいと、自宅を訪ねた。

台所は広く、真ん中に作業台にもなる大きなテーブルが鎮座し、いかにも調理しやすそう。
山越典子さんが富士見町に土地を見つけるまでを綴った、note「藤森旅館へつづく道」はこちら
https://note.com/fujimori_ryokan/all
自宅と宿をつなぐものと暮らしへの思い
宿の近くにある自宅は、林と水路の音に守られるように建つ古い平屋だ。畳敷きのつづきの間は、夏は建具を取り払って開け放てば風が通り、冬は立て切れば暖かい。「余計なものやプラスチック製品は置かないようにしています」というすっきりした空間には、宿との共通点を感じる。
細部に宿る遊び心も共通している。ソファやローテーブルの足の下には、山越さんが縫った丸い小さな〝お座布〞が敷かれている。壁には長男・創介くんの作品である絵や厚紙版画が。思わず笑みがこぼれる〝余白〞に、山越さんの暮らしにかける愛がにじむ。

畳敷きのつづきの間。ハンモックに揺られるのが創介くんのお気に入り。部屋の余白は、洗濯物を畳んだり、ヨガをする為に広めに確保しているそう。
大工である夫・一範さんとはじめた「くらしまわり」にも、暮らしを慈しむ思いが反映されている。毎日食べても飽きない配合を追究したオーガニック素材のグラノーラ、3種の粉を配合して有機黒ゴマをアクセントにしたホットケーキミックスは、ひとつ購入されると発展途上国に給食が一食届けられる「TABLE FOR TWOプログラム」の対象になっている。
これら朝食シリーズは自信作だが、食べることにも事欠く人には贅沢品ではないかという疑問があり、食の不均衡で苦しむ人たちに少しでも役立ちたいと参加した。
宿に置いてあるオリジナル全身シャンプーは、森林浴をしているような香りで髪、顔、身体が洗えるすぐれものとして好評だ。
健康や環境に気を配りつつ、暮らしを豊かに楽しんでほしいという願いをかたちにし続けている。


100年先も遺りますように
山越さんは三重県出身で20代は東京で過ごし、藤森建築との出会いを経て、茅野通いから安曇野移住、さらに茅野、富士見町と住むところを変え続けた。仕事も、アパレル業界から自然食品店、玄米菜食のリトリート施設、飲食店の経営、宿泊施設の経営と、その時の自分に必要なことを楽しみながら生業にしてきた。
宿の開業で夢は叶ってしまったように見えるが、実はスタート地点だったと山越さんは言う。「建築的価値がありますから、一法人の所有物を超えた財産として、この建物をいい状態で100年先にも遺していきたいです」。はじまったばかりの小泊Fujiの足跡、そして山越さん自身の旅路はまだまだ続く。

家の入り口には、夫の一範さんとはじめた「くらしまわり」のサインが。宿でも提供しているグラノーラやホットケーキミックスなどの製造を行なっている。Instagram @kurashimawari
小泊Fujiオーナー 株式会社のちのち 代表取締役 山越典子さん
1980年三重県生まれ。2009年に長野県の「穂高養生園」で働き始め、2012年には茅野市に移住して玄米菜食レストラン「おいしい家(や)」を営む。2017年からは夫と「くらしまわり」の屋号で衣食住の提案もしている。2023年に藤森建築の宿を開業。
DATA
小泊Fuji
【エリア】長野・富士見町
【住所】長野県諏訪郡富士見町(詳細は予約後に連絡)
【営業時間】IN 15:00~17:00、OUT 10:00
【他】1日1組一棟貸し(定員5名)、
朝食付き(セルフサービス)
宿泊料金は基本料金+宿泊者分の料金
基本料金¥66,000〜
小学生未満:無料、小学生:¥3,300、
中学生:¥5,500、高校生以上:¥8,800
その他詳細はホームページをご確認ください
小泊Fuji 公式サイト(こちらをタップ)
小泊Fuji 公式Instagram(こちらをタップ)
この記事を取材した人
ライター 栗本京子
大分県出身。2016年に東京から長野県に移住してフリーランスに。台所・料理・食べることが三度の飯より好き。
カメラマン 阿部紗夕里
1987年神奈川県生まれ。美味しい水と野菜と自然がある場所に住みたいとの思いで、現在長野を拠点に活動。自然と人を繋げる写真を撮れないか模索中。









