長年の取材活動から農業への関心が高まり、退職後に原村で就農した 一谷牧男さんと魚住由紀さん。ほおずきの魅力を伝えるべく栽培から加工まで手掛ける。
楽しむ姿勢を忘れず 二人三脚で10年
プチッと弾ける食感、まるでパッションフルーツのような南国系の香り、甘味と酸味が交錯する濃厚な味わい・・・・・初めて口にした時とてつもない衝撃を受けたのがフルーツほおずきだ。一谷牧男さんと魚住由紀さんもその味わいに魅了され、10年前から原村でほおずき栽培を開始。「一般的な作物と違って、何かおもしろいことができる気がした。毎日食卓に並ぶものではなく、ご褒美のデザートとして味わう特別な価値があるもの」と牧男さんはその魅力を語る。 日照時間が長くて風通しが良く、昼夜の寒暖差が大きい原村は、 水はけの良い土壌にも恵まれ、ほおずき栽培には最適。栽培期間中は農薬不使用、肥料が少なくてもしっかり育つが、樹勢が強すぎて コントロールが難しい。その反面、 収穫時に雨が降って袋が濡れると 黒ずんでしまうデリケートな部分も合わせ持つ。
冬期に育苗を始め、定植は5 月下旬 。9月から出荷作業を開始、霜が降りるまで収穫作業は続く。
また、一つひとつ手作業で収穫し、袋を少し開けて虫がいないかを確認するため、選果にも手間が かかる。さらに、熟度やサイズ、 袋つきにするかなど、出荷も顧客に合わせて対応。徹底 的にこだわるのも「力や品質を下げてはいけない」という使命感からだ。
フルーツほおずきのカプレーゼ
フルーツほおずき、ミニトマト、一口大に切ったモッツァレラチーズをオイルと塩こしょうであえるだけ。 ハニーとバルサミコ酢を加えるのが由紀さん流。ミントやバジルを添えて。
責任を持ってしっかり管理したいと機械化せず全て 手作業。「最初は強風対策や収穫と天候のタイミン グがわからず苦労しました」と牧男さんは語る。
由紀さんは蜂蜜ベースのほおずきソース味噌、ドライほおずきなどを開発。「このほおずきソースがポークソテーなどのお肉料理にとてもよく合いますよ」と語る。「出荷できないものを 加工に利用できるので選果の際のストレスがなくなりました」と牧男さん。役割分担を明確にし、生産と加工の両輪がうまく回ってい ることが継続の秘訣だろう。「楽しくなければ意味がない。楽しみながら暮らしと仕事が一体と なるような今のスタイルを維持していきたい」と牧男さん。「農業って本当に楽しい! ほおずきを通してたくさんの農家さんやシェフたちとのも嬉しい」と由紀さんも微笑む。
出荷前の選別作業ではガク(殻)を開 き 、一 粒ずつチェック。加工品は直売所や道の駅で販売 。
生の果実は贈答用のほか、県内外の飲食店から注文も多い。
それでも古くから日本では観賞 用ほおずきのイメージが定着し ていたので、最初はとても苦労 したそう。「今も食用ほおずきなんて言われるけど、一つで印象が変わる。「フルーツほおずき」のほうがかわいいでしょう?」。その言葉からほおずきへの深い愛情が伝わってきた。
- 原村いっちゃん農園
- 【エリア】長野・原村
- 【その他】https://itchanfarm.com/
この記事を取材した人 ライター・カメラマン 藤原恵里 山梨県北杜市清里生まれ。撮って書く二刀流フリー編集者&野菜ソムリエで、日本種苗新聞の記者も務める。