
北 杜市にある『クレイジーファーム』の農園主、石毛康高さん。カラフルな西洋野菜を中心に、年間70種類以上 を栽培。良い土と微生物の力によるおいしい野菜づくりに挑戦し続けている。
自然豊かで広大な土壌に恵まれ、年間を通して日照時間が気の湧水地も多い。そんな八ヶ岳エリアは、環境や人に優しい野菜づくりの最適地として全国的に有名だ。そもそも、人と土は切り離せない関係にある。それは、いにしえからの仏教用語「身土不二」が示す通りであり、医食同源」「体は食べ物でできている」という考えにも通じる。さらに「身土不二」という言葉が表す「土に根の生えた暮らしをすること」=「自然の中で生かされていることに気づき、家族や友人、地域のコミュニティーを大切にして、そこに根付くこと」の意味は、八ヶ岳で土に触れ、野菜づくりを行い、自然と共に暮らす人々に出会うごとに実感する。 今号では、そんな身も心も土と近い暮らしができ、人間本来の生き方が体現できる場所、八ヶ岳ならではの”土につながり、農でつながる人と暮らしのあり方”を特集紹介する。

日々野菜の様子を丁寧に見て回る石毛さん。
「露地栽培は天候に左右される。豪雨や突然のひょうなどで野菜がだめになることもあります」。
使い手と連携し、西洋野菜や伝統野菜を無農薬・有機で栽培
「消費者にも自分にも体に良い野菜を」と 手間暇をかけて土づくりから徹底し、 無農薬・有機栽培で珍しい野菜を作り続ける。

約1.3ヘクタールの畑と、2ヘクタールの田んぼを、石毛さんとスタッフの2人で管理してい る。
「八ヶ岳中央農業実践大学校の研修生が手伝ってくれることもあります」と石毛さん 。
農業の実践を学び直し 無農薬野菜を栽培
彼方に峻険な南アルプスや雄大 八ヶ岳を望む、広大な畑。「クレイジーファーム」を営む石毛康高さんは、ここで年間70種類を超える西洋野菜を作っている。
石毛さんが農家になったのは、大学でバイオミメティックスの研究を行っていたことがきっかけだ。「農業大学で石油由来ではない、再生可能な資源を使ったものづくりを学んでいましたが、やっぱり農業がやりたいと思いました」と話し、大学卒業後に八ヶ岳 中央農業実践大学校へ入学。「大学では農業の実践的なことが学べていなかったので、ここで技術と知識を身に付けました」。

.一つひとつ出来具合を見な がら収穫する。

大根だけでも8種類。カブは5種類。
ニンジンやからし菜、赤い水菜など多種多様な野菜を栽培している。
その後、農業関連の会社に就職。当時としては珍しいイチゴの栽培 に取り組んでいたが「社員の仕事が農薬散布。自分の体調も悪くなり、農薬や化成肥料を使わない農作物を作りたいと思うようになりました」と石毛さんは言う。 就農と畑を借りられるタイミングが合致して、2006年、夢だった農業をスタートさせた。

しっ かりと結球したサボイキャベツ。
有機野菜独特の 力強い味を大切に
石毛さんが手掛けるのは、有機栽培で育てる西洋野菜が中心。カステルフランコ、ビーツ、サポイキャベツなど一般的なスーパーではあまり見かけることがないものもある。「最初は一般的な野菜を作っていましたが、知り合いが勤めていたレストランのシェフに西洋野菜を作ってみたら?と言われたのが転機でした。 シェフがイタリアで 買ってきてくれたズッキーニやナスの種を撒いて育てたら、うまく 栽培できたので、これならやれると思いました」。

SNSなどを活用して、外国の農家が作っている野菜やレストランで使われてい るものを見て調べ、珍しいものがあれば種を取り寄 せて作ります」と常に探究心旺盛な石毛さん。

畑のそばにある家は、石毛さんが作業の際に活用している。
新しい種を手に入れると、試験 的に栽培し、実際に試食しておいしいかどうか確かめつつ試行錯誤しながら作る。 カラフルで味わいもさまざまな西洋野菜は飲食店で も評判を呼び、現在では約20店舗と取引している。コロナで一旦は取引が減少したものの、石毛さんが作る野菜への信頼は厚い。「実際に畑や野菜を見てもらい、私たち作り手の思いに共感してもらえ るシェフや店に使ってもらうよう にしています。北杜市のシェフは、 私たちを対等に見てくださるいい方ばかりです」。もちろん、石毛さんも取引のある店に食べに行くことを欠かさない。「どんな料理 にどのように使っていただいてい るのか、味わいながら野菜づくりの参考にもしています。シェフたちの豊富なアイデアには驚かされることも多いですね」。

苦味が少なくサラダにして食べたい、栄養満点のケール。
有機栽培で作る野菜は甘く、野菜本来の力強い滋味に溢れている。これもシェフたちに好まれる理由だと石毛さんは話す。「有機野菜は時に甘くなりすぎることが ありますが、自分はワイルドな味を大切にしたい。味が濃く、ほどよい苦味があり甘味がある。そのバランスを考えて土づくりをします。有機栽培はミネラルが豊富な土づくりが重要。 緑肥を施し、麦を撒いてその穂が出る前に刈って土にすき込む。麦が土の栄養になるので、様子を見ながら微細に調整します。自分たちなりにほぼ確立しましたが、これからもトライ&エラーの繰り返しですね」。

豊穣な土で育つ野菜はどれも色濃くたくましい。
今後はこれらの野菜を使った加工品づくりにも取り組んでいきたいという石毛さん。かっこよくク レイジーな農業の未来は、これからも無限大に広がる。

クレイジーファーム代表
石毛康高さん
1981年神奈川県出身。東京農業大学農学部卒業後、八ヶ岳中央農業実践大学校、
農業関係の企業での仕事を経て2006年にクレイジーファーム創立。
#八ヶ岳#山梨#クレイジーファーム
DATA
- クレイジーファーム
- 【エリア】山梨・北杜市
- 【その他】instagram.com/oyasaiokome/
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。
別荘でゆっくりセカンドライフを楽しむ予定が一転、野菜づくり。 無農薬・有機栽培で多様な西洋野菜や食用花を育てる親子を紹介。

イギリスの農園風景を思わせる 『ポニーハウスサラダガーデン』。
「自分たちが食べたい」 無農薬・有機野菜を栽培
見渡す限りのどかな風景が広がる、蓼科中央高原。彼方に八ヶ岳 の雄姿も見られるこの場所で、無農薬の野菜を育てるのが佐藤保子さん、トムさん親子だ。
「定年後にここでゆっくり暮らそうと思って、蓼科に別荘を持ったのですが、なかなかいい野菜が手に入らなくて。 キャベツ畑で農薬 を散布している様子を見て、自分たちが食べたい野菜とは違うと感じました」と当時を振り返る保子さん。まさか、自分で農業を始め るとは想像もしていなかったが、地域の交流会で出会った人との縁で、今の場所を借りることになったそうだ。

八ヶ岳連峰を望む広大な敷地で、4月から10月にかけて多様な 野菜を栽培。
1つの畑が約300坪以上あるというから驚きだ。栽培し た野菜は全国各地のレストランやホテルへと届けられる。
「広い畑ですが、地主さんがご厚意で、使えるだけ使っていいよっ て言ってくださって。農業のこと は何もわからず素人でしたが、こ この地主のお母さんが無農薬野菜 を作っていらしたので、 地主のお友達から野菜づくりのノウハウを教えていただいたのよ」とにこ やかに話す。「最初は失敗ばかり。雪解けにジャガイモを作ろうとで畑を耕していたら、近所の方から『何をやってるの? そんな鍬じゃ全然だめだよ。時期もまだ早いよ』と教えていただいて(笑)少しずつ覚えていきました」。

有機 栽培は土壌づくりが大切。農閑期に苦土石灰を入れてしっかりと耕し、
定植する前には有機肥料をたっぷりと与える。
一言で無農薬、有機栽培といっても簡単な話ではなく、最初は虫食いだらけだったという。「でも食べられないことはないんですよ (笑)。失敗から学んでいます」。かつてイギリスで暮らしたことがある保子さんは、ルバーブやビーツなど、イギリスの食卓に登場した珍しい野菜をいつか育ててみたいと思っていたという。その頃、仕事で海外へ何度も行っていたトムさんがイギリスから持ち 帰ったトマトの種を栽培したところ、うまく実をつけた。以来、西洋野菜やハーブの栽培に取り組んでいる。「最初は試行錯誤の繰り返し。 10年かけてようやくうまく育てられるようになりました」。
うわさを聞きつけて、シェフたちも訪れるようになり、「こんな野菜を作ってみたら?」と提案をもらうことも。 「イギリスには自分の庭で育てた野菜をいただくキッチンガーデンがあります。 ここが訪れる人々みんなのキッチガーデンになればいいと思っています」。

食 用の花、ナスタチウムの種 。花はピリッと爽やかなわさびのような味わい。
「イギリスに住んでいる頃、ナスタチウ ムを使ってお茶漬けを作り、みんなに振る舞いました」と保子さん。
難易度が高い野菜や花づくりにも挑戦
佐藤さん親子が育てる野菜は実に多種多様だ。特にトマトは30種 類以上を栽培する。 「日本の気候で育てるのは大変難しいです。 肥料はどんな種類をどのくらい入れるのか、温度管理はどのようにすれば良いか種子の開発会社と情報交換を行いながら作っています」。 また信州伝統野菜の糸萱かぼちゃや、難易度の高いレモンバーベナなどのハーブ類、食用の花の栽培にも挑戦している。「ここの土は八ヶ岳の伏流水を常に含んでいて柔らかくミネラルも豊富で、栽培には適しています。 朝晩の気温差も、野菜や植物にとっては恵みです」と2人は笑顔だ。

長野県や信州大学の協力を経 て、約9年前から信州伝統野菜の糸萱( いとかや)かぼちゃの栽培に取り組んでいる。
甘くてホクホクとし た糸萱かぼちゃは、地元のスーパー や小学校の給食に供給されている。
広大な畑で貸し農園や農業体験も行っていて、シーズンになると 農業を楽しむ人たちで畑は一層 賑わいを見せる。「もっと多くの人に野菜づくりの楽しさを知ってほしい」と保子さん。「育てて楽しい、 収穫して楽しい、食べて楽しい。この畑からの素敵な贈り物をいろいろな人に届けていきたいと思っています」。
農場主
佐藤保子さん
トム佐藤さん
保子さんは約25年前から蓼科で有機栽培に取り組み、『 ポニーハウスサラダガーデン』を設立。トムさんは海外 で仕事をしていたが、約10年 前に帰国 。保子さんと一 緒に野菜づくりを行う。
#ポニーハウスサラダガーデン#長野県#野菜栽培
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。
北杜市を再びホップの産地にするため、新たな品種へと改良。 フレッシュで香りの強い、良質なホップづくりに取り組む農園を紹介。
地元の品種を守るため ホップ栽培をスタート
ビールづくりに欠かせないホップ。 耐寒性に優れ、雨の少ない冷涼な気候を好むホップは八ヶ岳エリアでの栽培に向いている。しかし、かつては北杜市内に700軒ほどあったというホップ農家も、専業は『小林ホップ農園』 1軒だけだ。「今、国内のホップ農家は大手ビールメーカーと契約しているところのみです」と話す代表の小林吉倫さんが、ホップ栽培に乗り出したのは2015年のこと。子どもの頃に見た八ヶ岳の田園風景に荒れ地が増えたのを見て「何かできないか」と北杜市ならではの農産物の付加価値を調べる中で、北杜市に1軒だけ残っていたホップ農家の人と知り合ったという。「栽培を続けているのは“カイコガネ〟で、地元のホップの品種を守るためだということでした。しかしもう少しで辞めるという話を聞いて、それなら自分がホップ栽培をやろうと思いました」。
ホップは植栽してから5~6年たたないときちんとした収量が取れず、年に1回しか収穫できない上に、取引価格は50年前から変わらないという。また、栽培に手間がかかるのも特徴だ。「大手のビール会社が求めるフレッシュホップに対して栽培スケジュールを考えなくてはなりません」と小林さん。「病気にしないよう、こまめな消毒もします。手間暇がかかりますよ」。

1~2万本が植えられているホップ畑。
日本のホップは海外のものに比べて枝が長く伸びるが、
病害虫の耐性などが弱い。小林さんは改良を続けている.
病気に強く香りの良い新たな品種へと改良

約3カ月間で高さ5mまで伸びるホップのツル。
「短期間で変化が見られるのが楽しい」と小林さん。

カスケー ドや信州早生(わせ)など
23種類のホップを育てている。
小林さんがホップ栽培に力を入れるのは、「山梨県産のホップの価値をもっと上げたい」という思いからだ。「北杜市は、首都圏や大阪にも出荷しやすく、新鮮なホップを届けることができます」。そのために、改良も手掛けているという。「海外のホップは乾燥状態で輸入するので、収穫したてのフレッシュホップは手に入らないのですが、改良により香りが強い品種が多くあります。日本産のホップは70年ほど変わらないので、新たな品種を生み出したいと考えています」。すでに7年前から小林さんは試験改良中だ。「フレッシュなホップは30分以内に使うことでよりビールの芳香が強くなるため、需要があります。今後は、病気に強く香りの良い品種に改良していきたいと考えています」。

カスケードホップを使ったクラフトビール
「北杜の華 ホップスペールエール」。

代表 小林 吉倫さん
1989年埼玉県出身。
農学部卒業後、肥料やプラント関係、工場の立ち上げなどの仕事を経て2018 年にホップ栽培を始める。
DATA
- 小林ホップ農園
- 【エリア】山梨・北杜市
- 【その他】http://hokutohops.com/
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。

熱をなるべく加えないコールドプロセス製法で作る
洗顔用の石鹸 「HOUR」¥1,980。
肌への負担が少なく、洗い上がりもしっとり。
地元のひまわり畑プロジェクトやハーブ畑のクラブ、高校とつながり、 天然素材の石鹸を製作。ここならではの石鹸にリピーターも増えている。

竹炭や赤松の精油を使った石鹸。
洗浄力があり、肌にも優しい。
ひまわり油や赤松、 竹炭を使って石鹸に
「自分で作った石鹸の泡に包まれるのが最高の癒やしです」とにこやかに話す小古聞かずささん。もともと石鹸づくりが趣味だったが、八ヶ岳に移住したことをきっかけに「富士見のひまわり油で石鹸づくりをしたい」と思うように。 富士見高校養蜂部とつながりができ、ニホンミツバチのハチミツを使った石鹸を製作。また、地元のひまわり油のプロジェクトを手伝ううちに、耕作放棄地を利用してひまわりを育てることにもなったという。「ひまわりは鳥の格好の餌。鳥が飛んでくると気が気じゃない。でも自分の手で丹精込めて育てたひまわりで作る石鹸は自信作です!(笑)」。

自分で栽培したひまわりを使って作るひまわり油。
種の中にある油 を圧搾している。
また竹炭や赤松を使った石鹸づくりにも取り組んでいる。「赤松からオイルを搾取する際に出る蒸留水を石鹸に使えないか、と知人から話をもらって挑戦しました。精油も使用し、自然の香りがする 石鹸を作りたいと思って、コスト度外視で作りました」と小古間さん。泡立てるとほのかに漂う赤松の香りは、森を彷彿とさせる穏やかな香りだ。
竹炭は、地元の工務店「アトリエデフ』が行う環境整備から出たものを使用。実際に小古間さんも、竹の伐採や炭焼に参加することがあるそうだ。「竹炭は洗浄力があり、洗い上がりがすっきりとします。石鹸の素材にはぴったりです」と小古間さんは太鼓判を押す。「あくまでも個人的に始めようと思っていた石鹸づくりですが、八ヶ岳に来てあれよあれよという間に人とのつながりが広がり、自分が作りたかった石鹸を形にすることができて嬉しい」と話す小古間さんの、仕事の輪は広がり続ける。
アトリエスクランブル代表 小古間かずささん
1975年神奈川県横浜市出身。
横浜や東京 で会社勤務をした後、両親と原村へ移住。
その後関西へ。2013年に奈良で開業 2015 年に富士見町へ移住。
八ヶ岳デイズ(2023 SPRING vol.24)の本記事掲載以降、HOURソープでは新たに「HOURソープ アカマツ」と「HOURソープ タケスミ」の2種類が発売。
詳しくは以下のリンクからご確認いただけます。
DATA
- アトリエスクランブル
- 【エリア】長野・富士見町
- 【その他】atlier-scramble.com
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。

農が紡いだ優しいモノ
八ヶ岳の恵みを受けて育つ野菜や花、ハーブ。
自然と人の手によって大切に育まれた生命が、 人の心と体を健やかに、豊かにするプロダクトへ生まれ変わる。
慣れない移住暮らしを楽しく豊かにしてくれた、ハーブとの出合い。 栽培し、活用し、暮らしに取り入れる。矢崎綾子さんはその魅力を伝え続ける。
畑仕事を手伝ううちにハーブ栽培を行うように
「ハーブの自然な香りって、体にスーッと入ってくるでしょう? 癒やされて元気になりますよね」 そうにこやかに話す矢崎綾子さん。 横浜でアロマセラピストとして働いていた矢崎さんが、八ヶ岳でハーブ栽培を行うきっかけとなったのは、本誌でも紹介している『ポニーハウスサラダガーデン』との出会いだ。
「新鮮なレタスとハーブ、食用花で作られたサラダブーケを見て、ブーケって食べられるの?と驚きました」と矢崎さん。 知らない土地に来たばかりで気持ちがふさいでいたが、草取りや畑仕事を手伝ううちに、土に触れることで気持ちが前向きに。「ハーブに関わる仕事をしているのに、最初、種や芽を見ても種類がわからないのがショックでしたね」。

オレガノやローズマリーなど、好きな香りの乾燥ハーブを好みの塩と混ぜてハーブソルトに 。肉 や魚料理をはじめ 、 煮 込み料理やサラダにも香りを添えてくれる。

収穫したハーブはしっかりと乾 燥させてから、料理などに利用する。
こうした作業も全て会員みんなで行う。
毎日が発見と感動の連続。 通い始めて3年目には、オーナーの佐藤保子さんのすすめもあり、ここで自らハーブ栽培を行うことに。 会員制の畑活動「畑からの贈り物」 を立ち上げた。「自分がここで元気になったから、ここで恩返しがしたいと思いました」。

息子の高海くんと一緒にハーブソルト作り。「これがスイートマジョラム、これがタイム、と教えながら、一緒に作るのも私にとっては大切な時間です」。
晴れ渡る青空の下
土に触れて元気をもらう
畑活動や講座を通してハーブの魅力を伝える
「畑からの贈り物」の会員は約30人。 30~80代まで、世代も多岐にわたる。「広い畑でハーブを育てるのは、1人ではできないこと。みんなが力を合わせてやることで、お互いに気持ちが楽になると思うし、種を撒いて植物を育てることで心が豊かになります。 世代を超えてお互いに助け合ったり、相談しあったり。ハーブだけではなく、心の交流の場になって嬉しい」と矢崎さんは言う。
これらの畑仕事だけではなく、 乾燥ハーブを使ってお茶にしたり、ハーブを使った料理講座を開いたりと、自分で育てたハーブを暮らしに取り入れる方法も伝えている。「会員の方はみんな食べることが大好きだから、特に料理の講座は喜ばれますよ(笑)。おいしく味わったり、優しい香りに癒されたり、加工してお手当てに使ったり。ハーブが持つこうした力をもっと広めていきたいと思っています」。
また矢崎さんはこうしたハーブ栽培と並行して、アカマツの間伐材を再利用する活動も行っている。移住してきた頃、矢崎さんは八ヶ岳の森でアカマツに出会った。「森の中にいい香りが漂っていて、何の香りだろう探してたらアカマツにたどりつきました」。

アカマツを煮出してお茶を作ることは日課のひとつ。香ばしく飲みやすい一杯だ。

アカマツの精油を使ったフレグランスオイル。
蓼科中央高原の八ヶ岳アカマツ¥1,600。
約5kgのアカマツから精油は10mlしかとれない。
清々しい針葉樹の香りを知ってもらいたいと、矢崎さんは木々か ら精油を作り、香りの活用や魅力を伝える「森の香り・里の香りコ ンシェルジュ」の資格を取得。アカマツを蒸留し、精油を抽出して製品化している。「体への効果も期待できるアカマツが、間伐材としてただ捨てられるのはもったいないです。お茶や精油にして、もっと日常に取り入れていきたいですね」。 精油やハーブを通しての福祉への貢献など、矢崎さんの思いは広がるばかりだ。
「
『畑からの贈り物』代表 矢崎綾子さん
IFA認定アロマセラピスト、 森の香り・里の香りコンシェルジュ。
国産精油の普及を目指して「Japan tsunagu project」の活動にも関わって いる。
DATA
- 畑からの贈り物
- 【エリア】長野・茅野市
- 【その他】ayakostyle53.com
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。