
現地で収穫した野菜を使うおいしい料理を、絶景とともに楽しむ。ありそうでなかったサービスを提供するのは、『八ヶ岳絶景フィールドキッチン』。人々との交流、豊かな食体験を通して伝えたいことを主宰の2人に聞いた。
旬の野菜で感動の体験を
意気投合し運営スタート
真っ青な空と、かなたに浮かぶ八ヶ岳の勇姿。遮るもののない大パノラマを望む畑で、収穫した野菜を使った料理を楽しむ。そんな『八ヶ岳絶景フィールドキッチン』が、近頃じわじわと人気を拡大中だ。

主催するのは北杜市在住の中山裕介さんと、八ヶ岳西麓の槻木地区で『ツキノキマルシェ』を運営する小林正彦さん、そしてその仲間たちだ。幼い頃に、祖父の畑で遊びながら育った中山さんにとって、そこは学びの場でもあった。「のどかで美しい風景を見ながら、おいしい野菜を食べて、五感で自然の素晴らしさを感じる。何物にも代えがたいその体験を、再現できたらと思いました」。

中山さんは5年前にとあるイベントで八ヶ岳を訪れて以来、その豊かさに魅了された。毎週通うようになり、2023年に移住を決意。以来、東京と八ヶ岳の2拠点生活を送っている。「ここで、自分の原点となった体験を再現したいと思って」と中山さんは、『富士見 森のオフィス』のプロジェクト創出ワークショップ「ignite」に参加。起業に向けブラッシュアップを行う中で小林さんと出会い、「おいしい野菜を使って何かやりたい」と2人は意気投合。仲間を募り、2024年6月、本格的に『八ヶ岳絶景フィールドキッチン』をスタートさせた。

絶景の畑は、食関連のイベントで知り合った人や、小林さんのつながりから見つけた。今回は、小林さんの幼なじみ、三浦房和さんが営む畑だ。もう一つの拠点は、富士見町の『小さな食堂山ひこ』の協力を得ている。「将来的に観光農園をやっていきたい三浦さんと私たちの思いがちょうどマッチングしました」(小林さん)。「この体験を通して、土地を好きになってほしい。ゆっくりこの場所になじむように過ごしてほしいと思っています」と2人は笑顔だ。

【Name】中山裕介さん(左) 小林正彦さん(右)
埼玉県出身の中山さんは普段はデザインの仕事をしながら、また小林さんは南蓼科で地域活動を通して、日々生産者と関わりながら『八ヶ岳絶景フィールドキッチン』の運営に注力する。

小林さんが運営する『ツキノキマルシェ』では槻木エリアの野菜やはちみつなどを販売。
「ツキノキマルシェ」
【他】tsukinokimar.base.shop

作る人に食べる人
皆つなぐコミュニティー
『八ヶ岳絶景フィールドキッチン』は野菜が採れる夏から秋にかけて行われる。取材に訪れたこの日は、枝豆やキュウリ、トマトの収穫体験が行われた。子どもたちも土に触れながら一生懸命枝豆を収穫。採れた野菜は、洗ってみんなでかじる。フルーツのように甘いトマト、みずみずしく艶やかなキュウリは洗っただけでも十分おいしい。「収穫したばかりのキュウリは、パリパリじゃなくて柔らかい」という参加者の言葉も驚きだ。


ゆでたての甘い枝豆とトウモロコシ、夏野菜をたっぷり使ったカレーがこの日のランチ。食事は参加者に満足してほしいとの思いで、富士見町のカレー店『かるみれんげ』と茅野市の『チルクス惣菜店』と提携して提供。「地元の料理人とつながるのも、私たちのテーマのひとつ」と中山さん。採れたての野菜を使ったカレーはうま味が深く、極上のごちそうだ。

愛らしいキッチンカーで 、スパイスたっぷりのカレーや野菜ジュースを提供する。

標高1000メートル帯
食と農で結ぶのが目標
食後はこれも採れたてのスイカを親子で堪能。畑の脇を流れる清らかな八ヶ岳の水で冷やしたスイカはことのほか甘く、子どもたちも大喜びでかじりつく。その様子を見て、「収穫体験を通して、子どもが野菜に興味を持ってくれてよかった」と親たちもうれしそうだ。


中山さんは「これからもっと、この絶景フィールドキッチンを誰もが気軽に参加できる場所にしていきたい」と語る。また小林さんは、「ゆくゆくは、八ヶ岳の標高1000メートルのベルトラインに人がる地域を結んでいきたい」と話す。「これまでは高原野菜が主力でしたが、最近はワインのぶどう栽培や地ビールのホップ栽培も注目されています。この地域を食と農でもっと周知させていきたい。そのパイロットモデルとして、また新しいツーリズムのコンテンツとして盛り上げていきたいですね」(小林さん)
<田んぼに生い茂る稲の中でのご飯会を計画中!>
もう一つの拠点である、富士見町の「小さな食堂 山ひこ」前にある田んぼは、夕暮れの景色も絶景。秋シーズンには「稲の中でのフィールドキッチンも計画中」とのこと。


DATA
- 八ヶ岳絶景フィールドキッチン
- 【エリア】長野・茅野市/富士見町
- 【他】八ヶ岳絶景フィールドキッチンのInstagramはこちらをタップ
- チルクス惣菜店
- 【エリア】長野・茅野市
- 【電話】0266・78・8283
- 【住所】長野県茅野市中大塩11-22
- 【営業時間】11:30〜17:00
- 【定休日】日〜水
- 【他】チルクス惣菜店のInstagramはこちらをタップ
この記事を取材した人
ライター 小山芳恵
ライター生活四半世紀。八ヶ岳に出合ってその魅力にはまり、ライフワークの一環として八ヶ岳デイズに携わる。
カメラマン 篠原幸宏
1983年生まれ。20代後半の旅をきっかけに写真を始める。現在、長野県を拠点に活動中。